
フルシーズンを経験していない20歳のフランコと11年という大型契約を結んだレイズ。将来を見越しての投資ともいえる。来季以降のフランコの活躍が期待される
レイズのワンダー・フランコ遊撃手が11年1億8200万ドル(約209億3000万円=1ドル115円換算)の契約を結んだ。MLBでわずか70試合、1シーズンもプレーしていない選手への契約としては最大である。
20歳のフランコは6月に
コールアップされ、ほとんどの試合で二番か三番を打ち、OPSは.810。43試合連続出塁など安定した活躍を見せた。スィッチヒッターの遊撃手で、守備でも要。70試合でベースボールリファレンスのWARが3.5に届いた。
開幕から出ていれば、WARは「7」に近づいた可能性もあるわけで、今季ア・リーグで7以上は
大谷翔平含めて3人だけ。つまりトップエリートクラス。契約にはBBWAAのMVP投票などで5位以内に入れば年俸が上がるエスカレーター条項なども含まれ、12年目の球団オプションが行使されれば最大で2億2300万ドルに上るという。
とはいえ、これがフランコにとって良かったのかどうかは分からない。なぜなら彼がパドレスの
フェルナンド・
タティス・ジュニアに勝るとも劣らぬ才能の持ち主だからだ。タティス・ジュニアは2年間プレーした後、14年3億4000万ドルで合意した。低予算チームのレイズではそんな金額は到底期待できない気もするが、もう一年、待っても良かったのではないか。あるいは今、話し合われているCBA(労使協定)の結果、ルールがどう変わるかを知ったあとでもよかったと思う。
現在、選手会はこれまで調停権を得るのに3年かかっていたものを、2年に短縮するよう要求。さらにFA権取得も6年でなく5年にしたい。加えて球団が悪い成績を残してもドラフトで高い指名順を得られ、お客が入らなくても収益分配制度で救済される現行制度の歪みを正し、球団が毎年勝つためにFA選手にきちんと投資するよう求めている。
もちろんオーナー側もトレードオフを要求するわけで、新協定がどうなるかは分からないが、フランコにとってより有利な仕組みに変わる可能性はある。1億8200万ドルは断りにくいが、もう数カ月待っても良かった。
レイズは本当に抜け目ない球団だ。思い出すのはエバン・ロンゴリア三塁手のケース。2008年4月にメジャー・デビューしたが、同じ月に6年1750万ドルで合意。6年経過後も14、15、16年は球団に選択権があり、最大4400万ドルになるものだった。ロンゴリアは最初の5年間に大活躍、積み上げたWARは29.7で、スーパースター級。レイズにとっては安い買い物だった。
12年オフ、まだ26歳だったロンゴリアに17年からの6年1億ドルの契約延長で合意した。だが彼の成績は14年以降徐々に低下、スーパースター級ではなくなった。すると一部を負担する形で17年のオフにジャイアンツにトレードしている。
フランコはレイズの野手では、ロンゴリア以来のスーパースター級。現行の制度なら27歳でFAになり、争奪戦にあると
ヤンキースなど他球団に勝ち目はない。もちろん期待外れのリスクもあるが、ロンゴリア同様、20代の選手としての最盛期にチームに引き留めておけるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images