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第94回都市対抗野球大会展望 東京ドームで熱戦展開!!

<TEAM CLOSE UP>ENEOS(4年連続53回目・横浜市/推薦) 視界に入ったVロード

 

予選免除。補強選手なし。すべて経験済みの名将は、落ち着いている。7月14日、18時。この1年間、連覇のために時間を費やしてきたのだ。
取材・文=岡本朋祐 写真=菅原淳

大久保監督は過去にチームを4度の都市対抗制覇へと導いている。左袖には黒獅子エンブレムと、過去12度の優勝回数を示す星がある


 栄光から挫折、そして、再建。すべての過程に触れてきた野手チーム最年長の入社12年目の33歳・柏木秀文(城西国際大)の言葉には説得力がある。2011年に入社し、12、13年の都市対抗連覇、16〜19年は都市対抗西関東予選敗退を経験している。

「良いことも、悪いことも見てきた。学んだのは、リスク管理。若いころは勝つことだけを考えてきましたが、いかに『負けない野球』を展開するか。前回の連覇はベンチでしたので、今大会、メインでかぶることになれば、若い投手も多いので、逃げない声かけをしていきたいと思います」

 不動の正捕手。ここがブレていないのは、頼もしい限りだ。

柏木は入社12年目の野手チーム最年長。正捕手として2度目の連覇へ挑戦


 大久保秀昭監督はかつて06年から同社を率い、就任3年目の08年に田澤純一(元レッドソックスほか、昨年9月に14年ぶり復帰)を擁して都市対抗制覇へ導いた。12、13年には同社51年ぶりの都市対抗連覇。14年限りで退任し、母校・慶大の監督として東京六大学リーグ戦優勝3度、19年の明治神宮大会優勝を花道に、同年12月にENEOSに復帰した。20年には5年ぶりの出場へ導き2回戦進出、21年は8強とステップアップし、3年目で頂点に立った。

 名門復活へ。大久保監督の野球を最も理解しているのが、入社2年目の20年から主将に就任した川口凌(法大)だ。根底にあるのは「アマチュア野球の見本となるチームになる」。社会人としての品格に気を使い、グラウンドでの立ち居振る舞いにも目を光らせてきた。川口は3年間、球場横のトイレ清掃を担当したが、「大久保監督から『そろそろ代われ』と言われまして、今年からは副将の糸川(糸川亮太、立正大)に託しました。昨年の決勝(対東京ガス)は奇跡的な展開(0対4の6回表に3本塁打で逆転)でしたが、ミラクルは偶然では起きない。ふだんからの姿勢が、大一番で出ると信じています。周りからは『連覇』への期待の声が大きいですが、自分たちができるのは、目の前の1球に集中することです」。

入社2年目から主将となった川口は今年で4年目。すっかりリーダーの風格である


連覇のポイントは投手力


 昨年の都市対抗で1回戦から全5試合(先発1、救援4)に登板し、東京ガスとの決勝で人生初の胴上げ投手に輝いた柏原史陽(同大)。昨年11月の社会人日本選手権で自己最速152キロを計測し、今年4月のJABA四国大会でも151キロ。入社8年目、今年5月で30歳になったが、進化を続けている。

「自分が引っ張るというよりは、マウンドで投げる投手は一人しかいない。プレートを踏む立場の人が、チームが勝つために、自分の仕事をやればいい」。ENEOSは継投で勝ち上がるケースが多いが、試合終盤を任される柏原も“つなぐ意識”を強調する。「先発完投とかは考えず、出し切るところまで、出し切る。投手の頭数もいるので、1イニングずつ守っていければいいと思います。誰が出ても、どんな大会でも勝たないと意味がない」。

 大久保監督は都市対抗連覇へのポイントを「投手力」と分析する。

「13年の連覇時は大城(大城基志、現コーチ)と三上(三上朋也、現巨人)の二枚がしっかりし、リリーフも充実していました。今回は左の加藤(加藤三範、筑波大)と右の関根(関根智輝、慶大)の大卒3年目の2人がどうか……というところ。昨年の東芝・吉村投手(吉村貢司郎、現ヤクルト)のような上積みを見せてほしいです」

入社3年目の左腕・加藤が主戦としてフル回転できれば、連覇も見えてくる


 救援陣では新人左腕・楠茂将太(国学院大)が好調をキープしており、3年目左腕・若杉晟汰(明豊高)も安定感がある。6月末、侍ジャパン社会人代表候補選考合宿に参加したレジェンド・田澤は右肩のコンディション不良も、本戦に合わせて調整している。打線は昨年、打率.429、4本塁打、11打点で橋戸賞、打撃賞、若獅子賞とタイトルを総なめにした3年目・度会隆輝(横浜高)が軸。ほかにも入社11年目のベテラン・山崎錬(慶大)の勝負強さは相変わらずであり、瀧澤虎太朗(早大)、小豆澤誠(上武大)、丸山壮史(早大)も好打で、攻撃陣もつなぎの意識が徹底されている。

お祭りに参加する意義


 前回王者は予選免除で補強選手なし。大久保監督は「予選はないに越したことはありません。『お祭り』に参加することに意義があって、常に優勝が求められている。13年は新人を補強のつもりで山崎錬、石川駿(明大、元中日ほか)が台頭した。今年も新人に期待しています」。6月9日、西関東第1代表・三菱重工Eastとのエキシビションマッチでは山田陸人(明大)、与倉良介(駒大)、片山昂星(青学大)のルーキーが先発で一番から三番まで名を連ね、動きの良さを印象づけた。大久保監督は言う。

「ほとんどの選手たちは初めての連覇への挑戦ですけど、一番は僕の経験値がさらに上がっている。選手は変わりましたけど、僕のビクトリーロードみたいなのが、何となくイメージできる」

 ベテラン、中堅、若手とバランスの良い布陣である。前年王者の「鬼門」と言われる初戦を突破すれば、Vロードは視界に入ってくる。

TEAM DATA
ENEOS野球部
●所在地/神奈川県横浜市
●創部/1950(昭和25)年
●都市対抗実績/出場52回(優勝12度=1956、58、61、62、67、86、93、95、2008、12、13、22年)
●日本選手権実績/出場25回(優勝2度=1991、2012年)
●部長/松本啓介
●副部長/布野敦子、宮崎仁志
●監督/大久保秀昭
●コーチ/大城基志、宮田泰成、日高一晃
●ブルペンコーチ兼アナライザー/嘉門裕介
●マネジャー/高橋朋玄
●トレーナー/照屋英輝

「黒獅子旗」奪取へのキーマン 大城基志(コーチ)


大城基志


橋戸賞2度の左腕が指導者へ

 現役引退から4年間、東京支店に勤務し、営業を担当してきた。9年ぶりに黒獅子旗を奪取した昨年は東京ドームで観戦した。「お客さんをアテンドしながら、見ていました。ようやく仕事にも慣れてきたんです」。11月の日本選手権準々決勝敗退後、大久保秀昭監督から電話が入った。「そろそろ、戻るか? 野球部として会社に打診するので、心しておいてほしい」。2週間後、職場の上長からコーチ就任の辞令を受けた。「たくさんの野球部OBがいる中で、指導できるのはありがたいことです」。1月1日付で5年ぶりに現場復帰した。

 現役時代は頭脳派左腕として活躍し、3大会連続優勝を遂げた12年都市対抗、同年社会人日本選手権、13年都市対抗でMVPを受賞。都市対抗で2年連続での橋戸賞(MVP)は、61年ぶり2人目だった。「チームメートに助けられました。自分が代表していただいただけです」。謙虚に語る大城コーチは就任が決まると、昨年の投手陣の映像を見て特長を研究。チーム合流後は積極的にコミュニケーションを重ね、性格面の把握にも努めた。「以前と比べて、野球が変わってきている。当時よりも考えて練習している」と選手たちを認めるも、連覇に向けては「いつも通りの成長では難しい。1.5倍から2倍、練習しないと結果はついてこない」。大城コーチは対話を続け、万全のコンディションで試合に送り込む。

PROFILE
おおしろ・もとし●1987年8月20日生まれ。宜野座高-名桜大。ENEOSでは9年プレー。12、13年に都市対抗の橋戸賞、12年の社会人日本選手権MVP、12年にベストナイン受賞。18年限りで引退し、4年の社業を経て23年1月にコーチ就任。
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