ついにお披露目となった日本ハムの新本拠地・エスコンフィールド北海道。北広島に誕生した新たなボールパークは、2023年プロ野球界の大きなトピックのひとつだ。楽天との開幕戦で見えたものとは!? 取材・文=杉浦多夢 写真=高原由佳、BBM アクセスに課題もウワサに違わぬ迫力
一足早い、そして待望の開幕。日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」で楽天との開幕戦が行われた3月30日。北海道北広島は喧騒に包まれていた。
もちろん担当として現地取材だが残念ながら当日入り。羽田から約1時間30分、余裕をもって乗り込むはずが、出発が1時間近くも遅れる。乗り遅れたやつがいたらしい。空港での昼食をパスしてJRで北広島駅に着いたのは14時30分。駅前には長蛇の列とちょっと長い列が。長蛇の列は球場までのシャトルバスを待つ列。ちょっと長い列はタクシー待ちだ。シャトルバスは試合開始(開幕戦は18時30分)の3時間前から増発されるようだが、それまでは30分に1本。翌日から増便されたようだが、これではすべてのお客さんはさばけない。

北広島駅
迷わずタクシーを選択。こちらは回転が早く、20人ほどの列だったが比較的すんなり乗車できた。向かう道中、徒歩でエスコンを目指す人たちもたくさん目にしたが、正直なところオフィシャルに記されている「19分」での到着はちょっと難しいんじゃないかな、と感じた。
ちなみに試合終わりはもっと大混雑だったようで、予想されたこととはいえアクセスは今後の大きな課題になるだろう。取材終わりで混雑が引いてから球場を出たが、カメラマンの車に乗って札幌駅前のホテルまでは約1時間。札幌出張の上に、そこからまたミニ出張の感覚だ。
とはいえ球場周辺は「Fビレッジ」として街と一体となった開発が進んでいる。アクセスの問題もいずれはクリアできるはず、と信じたい。
さて、球場に着くとさすがの威容。外観からして近未来的で迫力がある。でもまだ開場の1時間半前なのに、ここでもすでに長蛇の列。ファンの期待感の表れだろう。あと1時間半も並び続けるのか……「暖かい日でよかったな」と心の中で労いの言葉をつぶやきながら、一足先に球場入りさせてもらう。

エスコンF開場前
やはりグラウンドが近い。例のバックネット裏からホームベースはすぐそこに感じる。ファウルエリアも狭い。外野のファウルゾーンに至ってはないに等しい。これはいずれプライベートで、バックネット裏から観戦したい。本気でそう思わせてくれる臨場感がある。MLBの球場のいいところ取りとか、WBC決勝ラウンドが行われたローンデポ・パークに似ているとか言われているが、たぶん本当にそうなのだろう。
ダルビッシュ有&
大谷翔平の両レジェンドの壁画をはじめ、内観も一見の価値ありのものばかりだ。
記者席は3階席レベルのバックネットからやや一塁側にあるのだが、傾斜も十分。グラウンドレベルとはまた違った迫力がある。右翼ホーム、左翼ビジターのブルペンもよく見える。これは楽しい。オープニングセレモニーが始まってもキャッチボールを続ける楽天の開幕投手、
田中将大もよく見える。ただ、照明がグラウンド方向より後ろには少ないため、手元が暗く、メモを取るのがきつい。その照明効果によってグラウンドが浮き上がるように見せているのだが、お客さんも移動のときには足元に注意が必要になるだろう。
光とプロジェクションマッピングを使ったオープンニングセレモニーも、小柳ゆきさんの歌声もあって繊細かつ華やか。音響もすごい気がした。きっと演出面では、まだまだ隠し持ったポテンシャルを秘めているに違いない。「何もしない」と言っていた
新庄剛志監督は最後にステージ下から飛び出してきたが、「演出の方に言われたまま」だったとのこと。

小柳ゆき/オープニングセレモニー
もちろんプライベート観戦ならクラフトビールとか、サウナとか温泉とかホテルとか、グルメとかクラフトビールとか、楽しみは無限に広がっていくのだろうが、そちらはまたの機会にご紹介できるはず。
選手たちの証言 グラウンドの実態は
残念ながら記念すべきオープニングゲームは黒星スタート。ではプレー面における新球場の実態はどうだったのか。「狭さ」に関しては何とも言えない。楽天・
伊藤裕季也の新球場1号はブルペン上部を直撃、
フランコの2発目も左翼2階席と完璧な当たりだったため、低いフェンスの恩恵とは無縁。
建山義紀投手コーチも「(打球が)上に上がるとヒヤッとする」と告白。「(打たれた)ホームランに関しては、完ぺきだったけど」と付け加えながらではあったが……。
ファイターズの打撃に目を移すと、
清宮幸太郎のフェンス直撃の二塁打は、本人が「あそこまで行くと思わなかった。思ったより飛んだ」という手応えだったらしいが、「どうせあそこまで行くなら入ってしまえばいいのに」とつぶやき、新庄剛志監督も「またフェン直かい!」と苦笑いを浮かべていた。結局、開幕3連戦でファイターズは本塁打ゼロ。恩恵を享受するのはまだこれからだ。
天然芝のグラウンドと、独特の照明の影響は確かに見て取れた。
芝とグラウンドの境目への対応にはまだ時間がかかりそうだ。二塁は
石井一成、遊撃は
上川畑大悟と2人の名手が固めるが、比較的強い打球が多かったとはいえ、ともに「待って」ゴロをさばいているように見えた。芝は毛足が長く、確実に打球が死ぬにもかかわらず、だ。芝の内側で守ることが多い三塁の
野村佑希も、「芝と土の切れ目は難しい」と証言している。
打球が死ぬのは芝の長さだけではなく、新庄監督は「グラウンド自体が弾まない」とも言っていた。中堅が主戦場の
五十幡亮汰も「やりにくさはないが、打球はかなりスピードが落ちる」と話している。まあ、五十幡にとっては前に突っ込むスピードが生きてくるわけで、球場の特性をプラスに転換していくしかないという言葉を続けていた。
ちなみに4回にフランコが放った三塁線を破る二塁打で、左翼の
松本剛がクッションボールの処理に手間取ったのは弾み方に戸惑ったからではなく、「二塁で刺そう(という色気)というのが頭をよぎった」からと正直に告白している。
松本剛の正直な証言は続く。照明だ。フライを処理する際、盛んにグラブを顔の前に出していた。「ライト(照明)は必ず、かぶる」。これも分かっていれば対処できること、その前提で守るだけ、と、こともなげに言ってのけた。正直で頼もしい。やはりチームリーダーは違う。

松本剛
いずれにしても指揮官の「練習するしかない」を、シーズンを通して実践していくしかない。元
巨人の
高田繁さんにこんな話を聞いたことがある。「壁際の魔術師」と言われた外野守備の名手だった高田さんだが、
長嶋茂雄監督の下で球団史上唯一の最下位となった1975年のオフ、野球人生で経験したことのない三塁へのコンバートを告げられた。猛練習の末に高田さんは翌76年にダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデン・グラブ賞)を獲得することになるわけだが、「幸運だったのは、その年から(本拠地の)後楽園球場が全面人工芝になったこと」とおっしゃっていた。他球団の誰もが球足の速さに慣れないグラウンドで、誰よりも練習することができる。それがアドバンテージになったというわけだ。
エスコンはその逆で天然芝になって打球が死ぬわけだが、練習量と慣れがそのままアドバンテージになることに変わりはない。
最後に、声出し応援解禁となったフルハウスの新球場はやはり迫力があったし、選手たちも本当にうれしそうだった。個人的には拍手とどよめきだけで皆がグラウンドに集中する観戦スタイルが好き派なのだが、プロ野球に日常が戻ってきたな、と感じたのは確かだ。ファンの声援を含めた新球場を味方に、逆襲のシーズンとしてほしい。