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野球浪漫2019

日本ハム・西川遥輝 真っすぐな情熱 「常に自分の中でしっかりしたものを持っていればいい」

 

端正な甘いマスクと非凡な才能。それはプロの世界で長所であり、短所にもなった。たゆまぬ努力と繊細な自己研磨によって、球界でも有数の攻守走を兼ね備えた選手にたくましく成長。プロ9年目を迎え、チーム内での立場も変化した。さらなる進化を遂げるため、真っすぐな信念と、情熱を胸に己の野球道を突き進む。
※成績はすべて9月4日現在 文=金田正大(スポーツライター)、写真=井田新輔、BBM


役目を全うする覚悟


 プレーボール直前の本拠地・札幌ドームに、激しいビート音が刻まれる。けたたましく鳴り響く自身の登場曲『Uproar(featuring Swizz Beatz)』に乗って、西川遥輝が打席に向かう。黄色い声が際立つ歓声を背に、ルーティンのスイングを数回繰り返してから勝負の舞台に立つ。

 チームが日本一に輝いた2016年に一番打者に定着。以降は不動のリードオフマンとして打線をけん引してきた。昨年のオフには2年契約の総額4億円(金額は推定)で更改。球団ではFA取得前の生え抜き野手と複数年契約を結ぶのは陽岱鋼(現巨人)以来と、異例だった。功績と期待の表れが、最大限の評価につながった。

 9年目の今季開幕前には侍ジャパンのメンバーにも初選出され、シーズンが始まってからは、ここまでチームトップの123試合に出場し、打率.282。数字的には十分に役割を果たしているように見えるが、低迷するチーム同様に西川自身は苦悩の日々を過ごしている。

「今年はメッチャ調子よかったときが、あんまないんですよね。思い出せる限りでは交流戦の横浜での3試合くらい(計14打数8安打をマーク)。ほかはちゃんとした安打、自分の思ったとおりのバッティングができたことはほとんどないですね。まあ、ちょっとパニック状態。あれ、どんなふうにやっていっていたっけって」

 人知れずスランプに陥りながらも斬り込み隊長の仕事に徹している。その中で唯一納得しているのは、内野安打の数。「運がいま付いているから、内野安打が出ているのかな」。昨季の内野安打は14だったが、今季はすでに25にまで伸びた。持ち前の選球眼を発揮して、四球数もリーグ3位の78四球を重ねている。

「ある程度、僕の知名度も上がっているので周りが“勝手に警戒”してくれているから調子が悪くても四球になったりだとか。調子悪いって言うのがバレていたらストライク投げておけば安打にならないし、塁に出すこともないのに勝手に厳しいところに投げたりして四球になってくれている。積み上げてくるものも本当に大切だなと思っています。なんとかして打ちたいなとは思いますけど」

 そう素直な気持ちを表現している。チーム屈指の練習量で城石憲之打撃コーチは「ハルキは誰かが止めないと、練習し続ける」と証言する。西川自身は「しんどいから自分で止められますよ」と笑うが実際に試合後、球場を引き揚げる選手の中で最後になることが多い。試合で打っても、打たなくても、人一倍練習する。その根底にはルーキー時代の歩みがある。

天才的な打撃センスでチームのリードオフマンを担う。この男の出塁が勝利の大きなカギを握る


見つけた自分のスタイル


 あふれんばかりの才能を引っさげ、10年秋のドラフトで智弁和歌山高からドラフト2位で日本ハムに入団。「そんなに練習していなかったけど、打てなかったことはなかった」。圧倒的なバットコントロールから不振とは無縁だった。負けず嫌いな性格は自覚するほど強く、あらゆる面でスター性を兼ね備えていた。

 プロ入り後、すぐに自信を打ち砕かれた。「そう簡単には打たせてもらえなかった」。急に打てなくなった自分と出会い、そのギャップに苦しんだ。そんなときに出会ったのが当時、二軍内野守備・走塁コーチで現楽天二軍監督の三木肇氏だった。

「三木コーチと出会ってからですかね。野球そのものを教わった。例えば、僕みたいなバッターがホームランばっかり狙っても仕方がない。足を生かすためには……というので追い込まれたらヒットを狙うよりかは四球を狙うほうがどちらかというと確率は高くなるので、ツースリーまで持っていくとか」

 三木氏は現役時代、俊足が武器も打撃に課題を持っていた。晩年は走塁、盗塁の技術でカバー。08年に現役引退後、13年まで日本ハムでコーチを歴任した。西川は「いろんなことを教わりましたね。たくさん野球の知識がそこで増えたかな」と感謝する。コーチとして、時に年の離れた兄のように慕う。

 野球に対する向き合い方は目覚ましく変化した。プロに入って初めて寮生活を経験。二軍本拠地の千葉・鎌ケ谷の勇翔寮には室内練習場が隣接している。暇さえあれば、練習に打ち込んだ。イースタン・リーグでの実戦が終わると、三木氏と特守を敢行。夕食後の午後8時から室内練習場で打撃練習を行い、同9時ごろからウエート・ルームで筋力アップを図った。「勝手な流れというかサイクルができていました」

 現在でも三木氏との絆は強く、オフシーズンに会うのが一つの楽しみになっている。食事会やゴルフを通して野球談議に花を咲かす。「三木さん、メッチャ野球好きなので。いっぱい聞いてきますし、僕も聞きますし」と、かけがえのない時間になっていた。

「体技心」の追求


 野球への意識改革は、体の改革にもつながった。入団当初の右肩痛を筆頭に、故障に苦しんだ。13年には一軍定着をつかみかけた矢先、左ヒザじん帯損傷と左脛骨骨挫傷を負い、2カ月以上の離脱。いくら練習を積んでも故障したらその成果を発揮することはできない。そう気付かされ「体技心」の大切さを知った。

「僕的には『心技体』でいったら体が何よりも一番大事。『体技心』っていうか。体の状態がすごくいいときって、なんか知らんけどメッチャ打てるときがある。痛いところがないとかじゃなくて、体のバランス的にすごい良いときってどんな打ち方をしても打てるときがあるんですよね。それって技術とかじゃなくて……。心ももちろんあるんですけど。体が整ってくるとメンタル的にも落ち着くし、大丈夫って思えるからまずは体を整えることが一番大事かな」

 重要視するのは、体を操るためのバランス。試合前練習では、全体でのウォーミングアップが終わってからも芝に横たわり、トレーナーに体のケアを求める。特に骨盤への意識は強い。体の状態を知り、プレーへの要因を探る。「調子が悪くなったら左肩が下がる。今年はそれがすごく多くて」。微調整することもある。

 一度、打席をわざと外す。自分が投手からどうやって見えているかを確認して再び打席に立っている。

 好不調のバロメーターになっている左肩の下がり具合は日常生活から気遣いを怠らない。右利きの左打ち。体の使い方からやむを得ないことも自覚している。ベッドに入ってからも、バランスを整えるために試行錯誤することがあるという。

「本当は寝るときとかも(体の)左を下にしたら寝やすい。右を下にしたら寝にくい。次の日とかに右を下にしたら、左が上がってへんかな……って寝たりするんですけど(笑)。寝られへんから結局、こう(体の左が下に)なっていたりして」

 悩みは尽きない。「スピードスター」の異名を持つ快足を持ちながら今季は19盗塁と低調気味。昨季は自己最多となる44盗塁で、球団史上初の2年連続盗塁王に輝いた。「今までの体の感覚と、ちょっと違うからスタートが切れない。あとはクイックがメッチャ速いっていうのもある」と分析する。

 意外なところで復調へのヒントを見つけた。先日、ある陸上の大会をテレビで見ていると桐生祥秀のスタートシーンが目に止まった。「右足を着いたときにちょっとグニッてなっていた。そこに、すごいロスが生まれているみたいで」。自らが盗塁でスタートを切る場面と重ねて気付いた。「変なロスが生まれている。右足なんですけど」。あくなき探求心と広い視野で、原因解明に導いた。

チーム一、二を争うスピードも大きな武器。今シーズンも背番号7がグラウンドを駆け回る


立場と心境の変化


 西川にとって盗塁へのこだわりは意外なほどにない。「走るほうに関してあんまり悩んだことはないので。好不調はもちろんあるんですけど」。毎年のように掲げているのは打撃タイトルの奪取。「走らなくてマイナスはあんまりないので。打てなかったらマイナスじゃないですか。常に打つほうに重きを置いています」。モチベーションはライバルの存在。西武秋山翔吾やチームメートの近藤健介ら「すごい人」がいるときに、狙うことに意味があると考えている。

 意識しているのは打撃タイトルだけではない。投手、野手問わず、チームメートに声を掛けるようにしている。同学年の有原航平もその一人だ。ここまでエース級の好投を見せているが、試合によっては走者をためるなど苦戦を強いられる場面に出くわす。そんなとき、西川は「いつになったら3人で終わるんや」とあえてハッパを掛けるような言葉を投げかけるという。

「同級生なんで気付いたことはなるべく声をかけてやっていかないと。メンタル的にも彼は波があるので。そこは上手にやっていってあげたら。それを冗談と捉えるか、本音と捉えるかはその人次第ですけど。周りが何にも言わなかったら、そうやって思っているんやとかも分かんないじゃないですか。若い子たちにはいろいろと言ってあげたほうがいいと思う」

写真左から近藤健介、西川、大田泰示の3人。強打も兼ね備えたリーグを代表する外野陣だ


 試合中のベンチで隣に座る石井一成には、もっと厳しいセリフで気合を注入する。「お前、最後の打席だぞ。死ぬつもりでいってこい!」。そこまでゲキを飛ばすのには理由がある。石井が周囲からどう見られているのか、強めの声を掛けて発奮させたほうがいいタイプなのか。選手それぞれの人間性を繊細に読み取り、言動に移している。実体験に基づき大切さを説く。

「ピン(石井)は、自分にプレッシャーをかけたほうが成績残せると思う。プレーが軽く見られがちなので彼は。本人は真剣にやっているつもりでも、そう見られるタイプとかあるからね。僕もチャランポランに見られがちだから。今でこそ確立できたものもありますけど。そういうふうに見られ、ほんまは違うのにとか。そうするためにはどういうふうにしてきたらいいのか。私生活とかも。ピンも変わってきたし。責任感生まれてきたし、すごい良い方向に出てきたと思います」

 西川がまだファームが主戦場だったころ。さわやかなルックスに、成長中のプレーよりも話題が先行した。熱狂的ファンは「ハルキスト」として注目を浴び続けた。一方で、試合中にミスすれば「チャラチャラしているからだ」と見た目を挙げられ、歯がゆい思いをしたこともあった。だからこそ後輩には厳しく、周囲からの目を伝える。

「人の意見ってメッチャ大事だけど、自分のしっかりしたものを持っていればいい。そこがブレると人にこうやって思われたって傷つく。でも自分はこうやってやっているっていうのがあれば、どう思われてもちゃんと見てくれている人は見てくれている。だから気にせずにいられる」

 今シーズンで27歳。若手が多いチームで立場は変わりつつある。プレー以外でも後輩を引っ張っていこうとする自覚は増している。昨年のオフには飛躍のきっかけを探る田中豊樹に声を掛け、合同自主トレを行った。栗山英樹監督も「ハルキはいろいろな部分でチームのためにやってくれている」と絶大な信頼を寄せている。

 私生活ではうれしい変化があった。甥っ子が誕生し、札幌や東京にも観戦に訪れている。それが西川にとって貴重な癒しのひとときになっており「子どもに僕のほうが遊んでもらっている感じ」と目尻を下げる。さまざまな魅力を放つその根底には、真っすぐに自分の道を突き進む強さともっと野球がうまくなりたいという情熱、確固たる信念が宿っている。


PROFILE
にしかわ・はるき●1992年4月16日生まれ。和歌山県出身。180cm80kg。右投左打。智弁和歌山高から2011年ドラフト2位で日本ハム入団。3度の盗塁王に加え、ベストナイン、ゴールデン・グラブ賞も2度獲得するなど、不動のリードオフマンとしてチームに欠かせない存在となっている。
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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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