理想とする姿、目標に背を向けることはできなかった。過去2度、先発として2ケタ勝利を経験しているが、昨季は中継ぎでも適性を見せ、オフには侍ジャパンの一員として世界一にも輝いている。しかし、新たなシーズンを迎え、譲れない想いが左腕を突き動かす──。選手たちの“ドラマ”に迫る野球浪漫。2020年の新章スタートを飾るのは、巨人の先発陣で柱となることを期待される24歳の物語。 文=福島定一(スポーツライター) 写真=桜井ひとし、山口高明、BBM 
プロ6年で136試合31勝のキャリアがあるとはいえ、まだ24歳。ウォーミングアップでは率先して先頭を走る
3年目で2ケタ勝利
体感気温10度を下回る日も多い2月の宮崎。巨人がキャンプを張る県総合運動公園内のブルペンに、汗まみれの男がいた。第3クール初日の11日。
田口麗斗はこのキャンプ最多となる146球の投げ込みを行った。隣の投手が次々と入れ替わる中、左腕の強烈なまでのデモンストレーションは終わらない。
「ラスト、行きます!」。146球目の直球をミットにたたき込むと、帽子を取って滴(したた)る大粒の汗を拭った。
「今年はもう一度、先発という形での挑戦機会を与えていただいています。いろいろとやらなくてはいけないことがありますが、まずは球数を投げること。先発していたときの感覚を体に思い起こさせるために、球数を多く投げています」 疲労感よりも充実感がそれを上回るのだろう。表情には笑みもこぼれた。昨オフ、
宮本和知投手チーフコーチに思いを伝えた。
「先発をやりたいです」。気持ちは正直だった。
原辰徳監督からも
宮國椋丞、
鍬原拓也とともに「先発再転向挑戦組」として認められた。なぜ先発にこだわるのか。そこには田口の入団時からの決意が潜む。
「プロ野球に入って一番の目標は200勝。目標を掲げてこの世界に入ってきたので、その目標は簡単には消せないですし、一度やらせてもらった中で2年(2016、17年)は(先発)ローテーションに入れて、次はダメで……。3年やって一流と思いましたし、そうなるためにも、3年に限らず5年も10年もできないと一流にはなれないと思う。自分もその域に入れるようにしたいという思いがあるので、目標に向かってやるだけです」 13年10月24日のドラフト会議。3位で指名された田口は
広島新庄高の室内練習場で吉報を聞いた。その後の会見では
「小さいころから夢見た舞台に立てる。うれしいですし、頭が真っ白になりました」と満面の笑み。目標を問われると、グッと鋭い眼差しに変わり「内海(
内海哲也、当時巨人、現
西武)さんのような信頼される投手になりたい。最終的には200勝投手になりたい」と171センチの体格を大きく見せるように胸を張りながら、堂々たる目標を打ち立てた。
1年目の14年は一軍での登板機会はなし。二軍では7試合の登板はあったものの、体づくりに専念していた。そして2年目。いきなり転機は訪れる・・・
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