ア・リーグ東地区で低迷するヤンキースは、トレード効果で息を吹きかえすことが出来るか(写真=AP)
危機的状況のヤンキースの先発陣にやってきた救世主
2014年7月31日午後4時(米東部時間=日本時間8月1日午前5時)を持ってウエーバーを介さないトレード期限が終了しました。
今年のトレード市場で積極的だったのは、各地区の首位で、ポストシーズン(PS)進出が濃厚な球団だったのではないでしょうか。念願のワールドシリーズ(WS)優勝に向け、戦力の上積みを図ったのです。
前半の戦いぶりをみていると、例年激戦地区と言われているア・リーグ東地区のヤンキースと、去年の覇者レッドソックスの調子の悪さが目立ったような気がします。
1994年以降の20年間で、ヤンキースとレッドソックス以外のチームが地区優勝したケースは、わずか3回のみです。(1997年のボルチモア・オリオールズ、2008年と2010年のタンパベイ・レイズ)。
また、過去20年間で両チームともプレーオフに進出できなかったことは、一度もないと記憶しております。今年は、20年ぶりに両チームがプレーオフに進出出来ない可能性があるシーズンだと思います。それだけに前半戦の両チームの低迷に私は驚きました。
特に私が気になるのは、昨季のワールドシリーズ(WS)覇者・レッドソックスです。現在50勝63敗(日本時間8月8日現在)は同地区首位オリオールズから14ゲーム差の最下位で、PS進出も絶望的な中、開幕時にいた先発ローテーションの4投手が他球団へ移籍するなど、開幕当初の先発投手のメンバーは既にいない状態です。
そして、レッドソックス同様、低迷しているヤンキースです。こちらも開幕時にいた先発ローテーションの3人がおりません。しかし、ヤンキースには期待出来そうな数字がある事を皆さんはご存知でしょうか?
2009年にヤンキースはスタジアムを新設しましたが、新球場に移り過去5年間のホームゲームでの成績を調べてみると、ヤンキースはメジャーリーグトップの勝率.637を残しております。その上、シーズン後半戦のスケジュールを見ると、ヤンキースのホームゲームはメジャー最多の41試合。日程的に恵まれているので、後半戦で勢いに乗ってくる可能性があると思います。
そのヤンキースの浮上のカギを握っているのは、間違いなくスターター(先発投手陣)です。
田中将大投手やCC・サバシアなど、
黒田博樹投手以外の先発陣は軒並み故障。地区優勝を狙うためには、新たな先発ピッチャーの奮起を期待したいです。
そのヤンキースが今回補強をした中で、私が注目したいピッチャーは、7月6日にアリゾナ・ダイヤモンドバックスからトレードで獲得したブランドン・
マッカーシーです。2012年のオークランド・アスレチックス時代に日本で開幕投手を務めた投手と言えば覚えている日本のメジャーリーグファンもいらっしゃるのではないでしょうか。
今シーズン、ダイヤモンドバックスで投げていたマッカーシーですが、3勝10敗・防御率5.01と目立った成績ではありませんでした。しかし、ヤンキース移籍後は4勝0敗・防御率2.08と、安定したピッチングをしています。
マッカーシーは元々素晴らしいコントロールの持ち主で、フォアボールも少なく、ヤンキースが好むタイプのピッチャーです。7月19日のシンシナティ・レッズ戦では、6イニングを投げて無四球9奪三振の好投を見せています。この移籍をきっかけにチームに勢いをつけ、マッカーシーの活躍に乗っかりヤンキースが浮上していけば、ア・リーグ東地区は間違いなく面白くなると思います。
デービッド・プライス獲得により戦力は整ったタイガース
その一方で1984年以来、30年ぶりとなるWS優勝に向け、タイガースが新たな陣営を手に入れました。タイガースはレイズから先発左腕デービッド・プライス(28)を獲得。その見返りに
オースティン・
ジャクソン外野手(27)をマリナーズへ、ドルー・スマイリー投手(25)とマイナーのウィリー・アダメス遊撃手(18)をレイズに放出しました。いわゆる三角トレードです。
「現状を考慮し、『どうすれば今年のWSを制するチャンスが最大になるか』と自問すると、彼(プライス)を先発ローテに加えるのが最良の一手だと思った」とタイガースのドンブロスキーGMは、大型トレードの完遂に胸を張り、またデービッド・プライス自身もツイッターで「ワオ、何て一日だ!! レイズファン、ありがとう!! 人生の偉大な一章は今終わったが、新章をタイガースでスタートする準備は万端だ!!」と移籍を喜んでいました。
皆さんもご存じだと思いますが、デービッド・プライスは2012年のサイ・ヤング賞受賞の左腕です。現在のタイガースには、11年のサイ・ヤング賞右腕ジャスティン・バーランダー、13年のサイ・ヤング賞右腕マックス・シャーザーがおります。直近3年間のサイ・ヤング賞獲得投手が一チームに勢ぞろいすることになったのは史上初めてではないでしょうか。
それほどまでにタイガースにとって、プライスは欲しい逸材だったのではないでしょうか。プライスはメジャーに定着した09年から6年連続2桁勝利をマークし、今季は11勝8敗(日本時間8月8日現在)、防御率3.11。199奪三振と投球回179回1/3、ともに両リーグ最多を誇っています。
私から見てプライスの良さはフォーシームを低めに集められる制球力と、ボールを放す時に力を伝える投球フォームにあります。昨年ダルビッシュ投手がインタビューでも明かしたように、プライスの投球フォームを自身の参考にしていると話していたように、無理のない効率良いフォームなのです。
タイガースはサイ・ヤング賞トリオに加え、他の先発陣も昨季の最優秀防御率2.57の
サンチェス、今季13勝5敗のポーセロが控えています。
打線には、昨季2年連続MVPの
カブレラ、今季21本塁打のV・マルティネスが在籍し、この布陣をみると今シーズンのプレーオフの大本命に躍り出ることは間違いないのではないでしょうか。
ヤンキースも、このデービッド・プライスの獲得に興味をしめしていたと言われていました。おそらくですが、交換要員での折り合いが付かなかったのだと思います。
ウエーバーの公示なしでトレードできる7月31日ギリギリになると、各チームのGMは猛烈な忙しさの中で交渉を行い続けます。しかし、8月1日になったからといってトレードに関する動きが終わるわけではありません。8月1日から8月31日までの31日間は、ポストシーズン進出を睨んだトレードの動きが続けられることになります。
ここで、私が注目していて8月以降にMLBでトレード候補になって来るであろう選手、またリストアップされそうな選手を紹介してみたいと思います。
先発投手 コール・ハメルズ(フィリーズ) イアン・ケネディ(パドレス) ジョン・ダンクス(ホワイトソックス) バートロ・コロン(メッツ) A.J.バーネット(フィリーズ) エドウィン・ジャクソン(カブス) リリーフ・クローザー ラトロイ・ホーキンス(ロッキーズ) ジョナサン・パペルボン(フィリーズ) アントニオ・バスタルド(フィリーズ) 内野手 ベン・ゾブリスト(レイズ) チェイス・アトリー(フィリーズ) アーロン・ヒル(ダイヤモンドバックス) ダニエル・マーフィー(メッツ) ジャスティン・モルノー(ロッキーズ) 外野手 マーロン・バード(フィリーズ) アレックス・リオス(レンジャーズ) ジョシュ・ウィリンガム(ツインズ) 指名打者・DH アダム・ダン(ホワイトソックス) プレーオフ進出に向けた各球団の動きは一層加速するに違いないでしょう。
PROFILE 1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。メンタル・フィジカルのバランスの良い選手が好み。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。