
ようやく井上は本領を発揮し始めている
少しずつ、だが確実にエンジンが掛かってきた。カモメの四番、“アジャ”こと
井上晴哉だ。
昨季は打率.292、24本塁打、99打点のチーム三冠王。申し分のない成績を残し、今季も開幕四番の座を勝ち取った。だが、オフから続く不振を引きずったまま、7試合で23打数1安打、打率.043、0本塁打、1打点。ファーム行きを命じられた。
2週間ちょっとの再調整を経て、4月下旬に復帰。すぐにまた四番へ据えられたのは、
井口資仁監督の信頼の証だろう。その期待に、徐々に応えられるようになってきている。
井上の調子のバロメーター。一つは右方向への鋭い打球、二つ目は打球自体が上がることだ。5月に入り、右方向へ安打を放つことでじわりじわりと打率を上げ、やがて打球が上がるようになると、自然とホームランもついてくるようになった。5月は月間打率も3割を超え、6本塁打をマークしている。
無理に右方向の打球、そしてフライを求めているわけではない。「単純に右方向に飛ぶようになってきただけだし、打球は勝手に上がるもの。無理に上げにいくと崩しちゃうので」と、バッティングの状態が上向いてきた結果だという。
昨季、眠れる大砲が覚醒したのは、シンプルに、ベースの上でボールを強くたたく感覚を手に入れたからだった。「また、その感覚が出てきたのは、調子がいい証拠だとは思いますあと一つ、二つ、新しいものが見つかればって感じですね」。
そう、まだこれからが井上の季節なのだ。昨季も6月は打率.386の6本塁打、7月に至っては打率.400、7本塁打、23打点で自身初の月間MVPに輝いている。苦しんだ序盤戦の分まで、“自分の季節”に爆発する。
文=杉浦多夢 写真=BBM