7年ぶりの優勝に貢献

四番・渡部健人を擁す桐蔭横浜大は関東地区大学選手権を7年ぶりに制し、仲間の手によって宙を舞う? 胴上げは人生初めてだった
優勝まであと1人。11月12日、創価大との決勝。三塁ファウルグラウンドに飛球が打ち上がった。ホットコーナーを守る桐蔭横浜大・渡部健人(4年・日本ウエルネス高)は猛然と打球を追う。
ウイニングボールを手にできたか? しかし、あと一歩、及ばなかった。そのまま三塁カメラ席に、112キロの体ごと倒れ込んだ。顔面を地面に打ちつけ、そのまましばらく動けない。
すぐさま審判員、一塁ベンチからはチームメートが寄ってきたが、渡部はゆっくりと立ち上がり、何事もなかったかのように守備位置へ戻った。その後、粘る相手打者を抑え、桐蔭横浜大は7年ぶり2度目の頂点に立った。「横浜市長杯第16回関東地区大学選手権」での優勝である。本来は上位2校が「神宮」へ出場できる大会であるが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、明治神宮大会が中止。今回は全国舞台にはつながらず「関東王者」で、秋の公式戦を終えることとなった。
「(初戦から3試合の連続完投勝利の)片山(皓心、4年・日立一高)が頑張っていたので、何が何でも捕ってやろうと思ったんですが……」
渡部と言えば、今秋の神奈川大学リーグにおいて10試合8本塁打。今大会でも中央学院大との初戦で一発。パワーヒッターの印象が強いが、「動ける巨漢三塁手」としても注目を集めている。冒頭のファウルフライをギリギリまで追えたのも、俊敏性にほからなない。
10月26日のドラフトで
西武から1位指名。「ドライチ」として迎えた公式戦で、周囲の目も大きく変わった。「プロ」としての自覚が芽生えた大会となったのか? 渡部に聞いた。
「学生なので。学生らしく、ハツラツとしたプレーをする。しっかり、学生らしいプレーをしたかった。最後まで貫けた? はい」
愛称「ベッケン」として親しまれた、渡部の大学4年間の思い出は?
「苦しい時期があったので、それを乗り越えることができた。2年生の秋。今日対戦した創価大との一戦で、自分のミスからサヨナラ負けを喫したんです。あのときの借りを返す。勝てて良かったです」。この日は本塁打こそ出なかったものの、4点目の犠飛。結果的に4対3で逃げ切り、貴重な1打点となった。
最も苦しかった時期とは?
「新型コロナウイルスの活動自粛期間です。自分の好きな野球ができませんでしたので」
純粋に白球を追う。それが、渡部の魅力だ。
ちょっとだけ舞った宙
閉会式後、まさかの展開が待っていた。ナインによる胴上げである。ワッショイを3回。しかし、112キロはそう簡単に上がらない。最後にもう1回。ちょっとだけ、宙を舞った。渡部を支える周囲の部員の表情を見ても、やや重かったように映る。
「初めてだったので……。あそこまで上がるとは……。ビックリしました。一人ひとりが意識高く練習に取り組んだ。神宮大会は中止になりましたが、最後、勝って終わろう、と、チーム全体が一つの目標に向かって、ブレずにこられた。いろいろな方が動いていただいた中での大会開催に、感謝したいです。良い思い出を作ることができました」
愛嬌たっぷりの「ベッケン」。
中村剛也、
山川穂高が本塁打で西武ファンの支持を集めてきたように、次世代の大砲・渡部が豪快なアーチで夢を送る日も、そう遠くはないはずだ。
文=岡本朋祐 写真=大賀章好