信頼が結実した一打

慶大の三番・下山は神奈川大との明治神宮大会準決勝[11月24日]でサヨナラ2ランを放ち、決勝進出へと導いた
慶大は今秋、30年ぶりの春秋連覇を遂げた。リーグ優勝を決めた最終週の伝統の早慶戦。
下山悠介(3年・慶應義塾高)は2試合で8打数無安打に終わった。早大戦を迎えるまでに.345だった打率は.270まで落としている。
「周りのチームメート、先輩方に助けられてばかりでした」
打線の中軸として、責任を感じていた。明治神宮大会までの約3週間。早慶戦では引っ張りの打球が多かったという。巻き込むスイングを修正し、素直にセンター返しする打撃を反復練習してきた。下山がこの1年間、取り組んできたボールの内側をたたくイメージである、インサイドアウトをもう一度、体に染み込ませてきたのだ。
東農大北海道との初戦(2回戦)では4打数1安打。そして、神奈川大との準決勝は4打席目まで安打が出ていなかった。4対4で迎えた9回裏。一死三塁から右越えのサヨナラ2ランを放ち、決勝進出へと導いた。初球の内角ストレートを、迷いなく振り抜いている。
「監督のほうから、打席に入る前に、余計なことを考えずに素直に行け、と言われました。外野に運べば1点入るぞ、と、何とか外野へ運ぶ気持ちで打ちました。何とか一本出せてホッとしています」
信頼が結実した一打。どんなことがあっても、慶大・堀井哲也監督は下山をクリーンアップ、三番から動かすことはなかった。
「そこまでヒットは出ていませんでしたけど、ミートする力はウチのチームでトップクラスです。下山が打てなければ仕方ない、ということで送り出しました」(堀井監督)
好きなタイプの選手は
巨人・
丸佳浩。どんなコース、球種も苦にせず、シュアなスイングが持ち味だ。常日ごろからエンゼルス・
大谷翔平、
オリックス・
吉田正尚の動画も見て研究を重ねる、打撃の求道者である。
「4年生が素晴らしいチーム、下級生がプレーに集中できる環境を作ってくれている。決勝は、勝っても、負けてもこのチームでできる最後の試合です。このチームの集大成を見せていきたいと思います」(下山)
高校時代から尊敬してきた四番・
正木智也(4年・慶應義塾高、
ソフトバンク2位)とクリーンアップを組むラストゲーム。今大会が終わればすぐに、最上級生しての新チームがスタートする。3年生・下山にとって、お世話になった先輩に恩返しする舞台でもある。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明