審判は喜んだ?

「ちぎっては投げる」投球を見せた土橋
テレビ中継よりも早く試合を終わらせる“時短”投球術で関係者を困らせた(?)のは
中日の
松本幸行だが、さらに時代をさかのぼると、この松本と似ているようで、対照的ともいえる投手がいた。昭和の終盤、平成の序盤を知るファンには
ヤクルト、
日本ハムの監督としての姿が印象に残るかもしれないが、選手としては東映(現在の日本ハム)ひと筋で活躍した
土橋正幸も、“時短”投手だった。
「21」という背番号とテンポのいい投球ということでは左腕の松本と共通しているが、土橋は右腕。緩急自在の松本に対して、土橋は速球派だった。土橋は捕手から球を受け取るや否や投球モーションに入って快速球を投げ込む。自身は「気が短いから間があると嫌だった」と語っているが、その「ちぎっては投げる」投球で打者は土橋のペースに巻き込まれ、次々に凡退した。1950年代から60年代にかけて活躍した土橋だが、もちろんテレビが一般的な時代ではなく、試合が早く終わることで審判たちが喜んだという。
とはいえ、土橋も松本も「投手は先発完投が当たり前」とされていた時代の投手たち。その前提が崩れた現在、ワンポイントリリーフも敬遠四球のように過去のものになってしまうのだろうか。
2022年、日本ハムの監督に
新庄剛志が就任したことで、その現役時代に
阪神で新庄が敬遠球をサヨナラ打にした映像も繰り返しテレビなどで流されたが、皮肉というのか、この22年、こうした場面を見ることはできない。わざわざボール球を続けて4球も投じるという無駄に思える行為に、選手たちの感情がむきだしになる瞬間があることを長いプロ野球ファンは知っているはずだ。
巨人の
江川卓はライバルで阪神の
掛布雅之に対して敬遠を指示されると剛速球を投じた。巨人で江川の後輩にあたる
上原浩治は本塁打王に迫るヤクルトの
ペタジーニを敬遠して悔し涙を見せたことも。首位打者を争う中日の
田尾安志はボール球を憮然と空振り。いずれも昔の話だ。この22年が最後になるかもしれないワンポイント。場面は短い。ファンは悔いのないように、この短い時間を見守るしかない。
文=犬企画マンホール 写真=BBM