さらなる常勝軍団構築へ、ソフトバンク・小久保裕紀新ヘッドコーチがいよいよベールを脱ぐ。現役時代をともにした斉藤和巳氏も、その手腕がチームにもたらす好影響を楽しみにしている。 取材・構成=菅原梨恵 写真=BBM 
侍ジャパンで指揮を執った経験を、小久保ヘッドはどのようにチームづくりに生かしていくか
見えない“短所”にアプローチ
球団OBであり、侍ジャパンで監督もされた方。あらゆる面で『小久保裕紀ヘッドコーチ』は、注目の的でしょう。
ホークスは正直なところ、若い野手が育っていない現状があります。まだ主力クラスが力を発揮してくれていますが、5年後を見据えたとき、今の主力はほとんどベテランだったり、(引退して)いなくなっている可能性も。その状況で誰が主力になっているのかを考えると、投手より野手のほうが課題が多いと思います。
昨季、栗原(
栗原陵矢)が出てきましたが、まだ1年ですからね。栗原のような選手が、次から次へと出てくるようになってもらわないと。その意味で小久保さんに期待されている部分は大きいです。
とは言え、一軍のヘッドコーチなので、若い選手だけに目を向けているわけにはいきません。まずは、一軍の戦力、戦い方というところで、選手一人ひとりを確認するところから。担当コーチと話しながら、チームの現状を知ることが必要です。
外から見るのと、中から見るのでは、違う部分もあると思います。特にチームが勝っているときって、表にはマイナス要素が出にくかったりするんですよね。でも、「V10」を目指しているホークスとしては、もろさがあってはいけません。
良い状態のときは「そのまま、長所を伸ばして」と言われたりもしますが、短所を消そうとしなければ、短所が長所を隠してしまうこともある。短所をどれだけ理解できているかが、個人的にも、組織的にも、重要なのです。そこを分かっている選手が一人でも多いほうが、年間通して波の少ないチームになるんじゃないかなと思います。
小久保さんは長所、プラス部分はもちろん、短所、マイナス部分にもしっかりと目が行き届く方。これは小久保さんに限った話ではありませんが、ヨーイドン! ですぐに指導はできません。まずは『見る』ことから。見て気がついたことを、あとはどのタイミングで、どう選手、コーチに伝えていくのか、注目ですね。
工藤さん(
工藤公康、監督)とコーチ陣、工藤さんと選手の間に小久保さんが入ることで、これまで以上にスムーズにいくところも出てくるでしょう。特に野手に関しては、投手出身の工藤さんより小久保さんのほうが詳しい。ただ、最終的に決断を下すのは監督というところで、小久保さんもそれを分かっていて、うまくバランスを取ってくれると思います。
厳しい方ではありますが、他人に対する以上に自分自身に厳しい方。だからこそ、発する言葉一つひとつに重みがある。ただ、選手たちも気を遣ってしまっていてはダメです。自分が成長するためには意見交換も大事。いい緊張感の中でのコミュニケーションが、チームをより一層強くしてくれるはずです。
私の二重丸 注目プレーヤー
栗原陵矢[捕手/ソフトバンク] レギュラー獲りへ、新たな挑戦 勝負の年、サードにも挑戦するタイミングで、長くサードを守ってきた小久保さんがチームに来たというのは、「流れを持っているな」と思いましたね。打撃こそ右(打ち、小久保ヘッド)と左(打ち、栗原)で違いはあるものの、攻守でどんな“変化”が見られるのか、楽しみです。
アマチュア時代も含めてサードは初めてのようですが、大丈夫。ファーストは一軍でも守っていますし、守備は練習次第。チームとしては、松田(
松田宣浩)を押しのける選手をつくらないといけません。その筆頭候補になってもらいましょう。
PROFILE さいとう・かずみ●1977年11月30日生まれ。京都府出身。右投右打。投手。南京都高から96年ドラフト1位でダイエー(現ソフトバンク)入団。エースとして投手3冠や沢村賞(2回)など数々のタイトルを獲得。しかし、右肩の故障に悩まされ、2007年が最後の一軍登板に。11年からリハビリ担当コーチとして復帰を目指すも、13年7月に引退表明。現在は野球解説者として活躍し、YouTubeチャンネルも開設。