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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「戦力を活性化させる胸騒ぎを覚えるトレード」

 

田尾安志西武移籍は、竜党にとって衝撃的な出来事だった


 ジャイアンツで8年にわたって1年ごとに4度ずつの開幕投手を務め、一時代を築いた“2人のエース”、江川卓西本聖が話をしていたとき、お互いが「そういえばそうだったな」と苦笑いを浮かべたトピックがあった。

 それが、ともにトレードの経験者だった、ということだ。

 江川はいわゆる“空白の一日”に交わしたジャイアンツとの契約が無効とされ、ドラフトでタイガースに指名された。江川との契約は有効だと主張するジャイアンツとドラフトで江川との交渉権を得たタイガース――日本球界は大混乱に陥り、落とし所を見出さなければと何らかの裁定を出さざるを得なかった当時の金子鋭コミッショナーは「江川はまずタイガースと契約し、その後、すぐにジャイアンツへトレードする形での解決を望む」という“強い要望”を出し、最終的にはその形で決着する。江川は縦縞のユニフォームに一度も袖を通すことなく、ジャイアンツへトレードされた。

 一方の西本は、ジャイアンツで活躍したあと、ドラゴンズへトレードされる。チーム内でのコーチとの確執が表面化したこと、当時のドラゴンズの監督だった星野仙一が西本のピッチングを高く評価していたこと、ジャイアンツの監督を務めていた藤田元司が西本を生かすにはジャイアンツを出たほうがいいと考えたことなどがトレードの背景となっていた。西本はドラゴンズに移籍したその年、20勝を挙げてジャイアンツを見返した。その後は(オリックス)ブルーウェーブを経て、最後はジャイアンツに戻って現役を終えた。

 ライバルとして火花を散らした現役時代を振り返る企画で、2人はタブーの如きトレードについてあえて触れているように見えた。歳を重ねた江川と西本が穏やかな笑みを浮かべながら「そういえば、ニシもトレード経験者なんだよな」「スグルちゃんだって」と言葉を交わす。昭和の時代のトレードからは、互いの戦力の補充ということだけではない、複雑な人間関係やらチーム内のもめ事やらが野球好きにまで透けて見えてきて、それはそれで面白かった。当時のトレードには、いつも期待感と胸騒ぎが混在していたものだった。

 さらに忘れられないのが1985年の1月末に公となった、まさかのトレードである。当時、“ドラゴンズの田尾”といえば、名古屋の野球好きにとっては聖域だった。その田尾安志が突然、ライオンズにトレードされたものだから、ドラゴンズ好きにしてみればたまったものではない。超がつく熱狂的なドラゴンズ好きの友人は、明け方まで電話で延々と愚痴り続けたものだった。

 今思えば、こうした驚きと胸騒ぎを伴った喜怒哀楽は、野球好きの醍醐味でもあった。「世紀のトレード」と言われる小山正明山内一弘のトレードは記憶にないのだが、江夏豊田淵幸一がタイガースを出たときの衝撃は今も忘れられない。張本勲がジャイアンツに入る、小林繁が江川との交換でタイガースへ移る、三冠王の落合博満がドラゴンズへトレードされる、秋山幸二がライオンズからホークスへ移籍するなど、その昔は驚きと胸騒ぎを伴ったトレードがいくつもあった。最近はFAやら人的補償やら現役ドラフトやら、移籍のバリエーションが増えたこともあって、衝撃的なトレードは多くはない。それでもこのオフはドラゴンズとイーグルスの間で阿部寿樹涌井秀章のトレードが成立して野球好きを驚かせたり、ドラゴンズの京田陽太のベイスターズへのトレードから監督との確執が透けて見えてしまったりといった、胸騒ぎを覚えるトレードがいくつかあった。そういう人間ドラマも含めてのプロ野球なのだから、それはそれでいいのではないかと思う。

 このオフ、初めて行われた現役ドラフトでも興味深い移籍があった。オコエ瑠偉がイーグルスからジャイアンツへ、戸根千明がジャイアンツからカープへ、大竹耕太郎がホークスからタイガースへ、陽川尚将はタイガースからライオンズへ、ほかにもなるほど、という名前が出てきた。ただ、これが出場機会に恵まれない選手の救済を目的とするのならば、まだまだ改善の余地はあるだろう。

 今年は年俸5000万円以上の選手やFA資格を持った選手、育成選手や複数年契約選手など、いくつかの条件に当てはまる選手は対象から除外された。その上で各球団が選手を2名ずつリストアップしたのだが、そうした条件を並べるのではなく、例えば高卒7年目、大学、社会人で3年目を終えてなお、“規定の出場数”(新たに設定)を満たしていない選手はすべて自動的に対象とする、ということにはできないのだろうか。

 さらに各球団には指名を義務づけることなく、起用したい選手がいれば指名することとする。同時に1球団から4人以上は指名されない……そうした方向へ持っていけば、シンプルに戦力の活性化を図ることができる。「出場機会に恵まれない」すべての選手を対象として、「あの選手はウチなら出場できるのに」という球団が獲得するようになれば選手も球団もウインウインになると思うのだが、どうだろう。

PROFILE
いしだ・ゆうた●ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。
石田雄太の閃球眼

石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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