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CAMP INSIDE REPORT

【キャンプリポート】日本ハム・優勝へ向けて本気になるための“ムチ”。緊張感のレベルが変わった新庄ファイターズ

 

就任2年目を迎えた新庄剛志監督率いる日本ハムのキャンプが変わった。トライアウトと位置付けた昨シーズンから一転、「優勝だけを目指す」と指揮官が宣言する今シーズンへ向けて、その本気度の高さが感じられる。最下位からの逆襲なるか――。その内幕をリポートする。
写真=高原由佳

2年目を迎えた新庄監督。今年はキャンプで派手なパフォーマンスを行っていない[左は稲葉篤紀GM]


選手だけに向けるベクトル


 日本ハムの一軍キャンプ地の沖縄・名護には、昨季とは違う緊張感が漂っている。新庄剛志監督は、見た目の派手さは昨年と変わらないが、あえて言動で注目を集めるようなことはない。キャンプイン前に「優勝だけを目指す。みんなが期待するパフォーマンスは、あんまりないから。野球だけやっていきます」と宣言。有言実行の光景が、のどかな山原(やんばる)で繰り広げられている。

 象徴的なシーンの1つは第1クール3日目の2月3日で見られた。新庄監督は高さ3.6メートル、横幅5メートルの「SHINJO STAGE」に上がると、マイクを持ってシートノックの様子をチェックした。「送球ミスしたら、もう1回」と、野手陣に通告。送球が乱れたら「もう1回」と、やり直しを指示したり、具体的に「80%でいいから(送球を)相手が投げやすい場所に投げてあげる」とアドバイスも送ったりした。

 昨年も同様のシーンはあった。違いは、マイクを通して送るメッセージの宛先。昨春は「ファンの皆さま。これから『これがプロ』という、カッコいいシートノックをお見せします!」など、スタンドに詰めかけたファンの興味をそそるような“パフォーマンス”も多々あった。そのたびに、ファンからは温かな拍手や笑い声が聞こえたこともあった。

 ただ、就任2年目の指揮官が意識的にベクトルを向けているのは選手だけだ。昨年は新庄監督がタピックスタジアム名護を包み込んでいた柔らかな空気を醸成していたが、今年はあえて封印。理由は明白で、トライアウトと位置付けた昨シーズンから、優勝だけを目指すという今シーズンへ、チームとしてのフェーズが変わったからだ。おのずと厳しさを感じるような雰囲気が漂う。

 練習内容も、野手陣については新庄イズムが浸透した昨季を踏まえて進化した。指揮官が掲げるのは「守り勝つ野球」。加藤貴之上沢直之伊藤大海ら先発陣にタレントが多くいる投手陣の強みを生かすには、確実に得点を奪う攻撃力とムダな失点を防ぐ守備力がカギになる。

練習内容の“深化”


 攻撃面では昨季からの継続として、次の塁を狙う積極的な走塁の意識付けを今キャンプでも行っている。今春キャンプでは各選手の「走塁の型」をくまなくビデオ撮影。盗塁のスタートや帰塁時のヘッドスライディングの姿を、いつでも見返せるように可視化。打撃や投球でも各選手が理想の「フォーム」ができているかをチェックするように、走塁でもフォームチェックすることで技術的な進歩につながるように取り組む、練習内容の“深化”が見られた。

 打線は早くも固定化が始まった。一番に俊足の五十幡亮汰、二番はDHで足を使えるドラフト1位の矢澤宏太万波中正浅間大基らが入る。三番・松本剛、四番・野村佑希、五番・清宮幸太郎でクリーンアップを組み、六番に上川畑大悟、七番は石井一成。八番・捕手は宇佐見真吾もしくは新戦力の伏見寅威で、九番はポテンシャル開花に期待の江越大賀。これが開幕オーダーの基本型だ。

ドラフト1位の矢澤[上]、同3位の加藤ら新戦力の台頭も楽しみだ


 新庄監督は「昨年いろいろ試した結果、この打順がベスト。いかに点を取るかという打順が今こうなっているだけ。これでいきます」と明言した。昨季から「来年はガチガチのメンバーでいく」と、宣言していたとおりにトライアウトで結果を残した選手へ優先的にチャンスを与えた。同時に「開幕ダッシュで、ちょっと遅れそうだなと思ったら変えていく。とにかく開幕で一番いい選手たちにグラウンドでプレーしてもらう」と緊張感も与えながら、筋の通った2年がかりの骨太打線の構築が本格化し始めた。

交流戦に勝つために


 投手陣には早くも「バント練習」が推奨された。全体練習メニューの終了後に行う個人練習の中で取り組むよう、練習メニュー表にも記載された。目的は「交流戦に勝つため」。新庄監督によるトップダウンの指示だったという。

 普段はDH制で打席に立つことがないパ・リーグで戦っているため、日本ハム投手陣は例年、シーズン開幕から約1カ月後の4月下旬から打撃練習を行うが、付け焼き刃で臨むイメージが強かった。交流戦はセ・リーグ本拠地で戦うのが9試合だけ。143分の9と考えたときに、打撃よりもとにかく投球をと考えれば、バント練習にそこまで注力しなくてもいいかもしれないが、とにかく優勝を目指す今季は、どの試合も全力で勝ちにいくのが新庄監督。たった9試合ではなく、DH制のない9試合も着実に1点を積み重ねて勝つために、早くも意識付けが行われた形だ。

ドラフト3位 加藤豪将[左]


 オフの間に21人が退団した。その中にはソフトバンクへFA移籍した近藤健介も含まれるが、交換トレードも3件(4選手)あった。そして、20選手が新たに加わった。チームの血の入れ替えは約1/4。加藤豪将ら即戦力として期待のルーキーも多く、経験値を上げる段階だったチームは勝つための集団へとステップを駆け上がる段階へ進んだ。緊張感のレベルが変わるのは当然。キャンプ初日に組まれた紅白戦も、誰もが優勝へ向けて本気になるための“ムチ”である。

 新庄監督は「ペナントレースは俺の頭の中では50試合しかない。もうスタートダッシュ」と明確な方針を打ち出している。選手個々のレベルアップを目指した1年からチームとしてのレベルアップを目指す新たな1年は、また新鮮で刺激的な、ほかのどのチームにもない独特の空気感で進んでいる。
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