キャンプイン初日の練習前、「任せたぞ」と田邊監督から直々に開幕投手を告げられた。3年連続3度目の大役任命に、昨季最高勝率受賞投手としての自覚を強め、今季をスタートさせた。キャンプ序盤、背中の張りで約1週間別メニューというトラブルには見舞われたが、キャンプ、オープン戦と着々と調整を進め、開幕前ラスト登板までのステップを踏んだ。だが、その試合で最も恐れていたアクシデントが起こった。
3月21日の
DeNA戦(
西武プリンス)、2回一死三塁で迎えた
バルディリスへの投球で左ワキ腹痛を発症。勝ち頭の長期離脱というチームにとって痛恨の事態を迎えることとなった。人一倍負けず嫌いであり、責任感の強い男である。誰よりも本人が一番悔しい思いを抱えていることは言うまでもない。特に今季は目標に「最多勝」を掲げており、「そのためには、1年間ローテーションから離脱しないこと」を自身、そして指揮官からもテーマづけされていた。それだけに、無念さはひとしおだろう。
ただ、一方で、エースの離脱がチームに一体感をもたらしていることも、また事実である。開幕5試合中4試合で先発投手に白星がついた。「それぞれが『岸さんの分も、自分がやらなければ』という責任感を感じながら投げている」と田邊監督も投手陣の奮投ぶりを高く評価している。実際、投手、野手に限らず、多くの選手の口から「岸さんが戻るまでは」との言葉が聞かれる。その思いの集結が、開幕5連勝という好結果を生んだに違いない。
開幕後、まだ一軍のグラウンドに背番号『11』の姿はない。だが、その存在感はいたるところに表れている。岸がチームメートたちからいかに信頼され、慕われているのかをあらためて感じる。“エース”の復帰を、仲間もファンも心待ちにしている。