ムードメーカーかと言われれば、ニュアンスは少し違う。確かな経験と煮えたぎる闘争心が重なり合い、
新井貴浩は大声を上げる。盛り上げる、ではない。ある若手選手は言う。「スタメンであろうとベンチスタートであろうと、攻撃中に一番声を出しているのは新井さんです。その姿を見て雰囲気だったり、気付かされる部分が多いんです」。新井の姿を見て周りが気付かされ、雰囲気が変わるのだ。
新井は
広島に加入した際に言っている。「泥だらけになってやる。その姿を見て感じてもらえれば」。それはファンだけに向けられた言葉ではないはずだ。低迷期のチームを知るからこそ、ベテラン選手として自分がどうあるべきか、を分かっているのだろう。強いチームの雰囲気、弱くなってしまう原因。自分の振る舞いで、それを変えようとしている。前出の若手選手も
「新井さんの姿で、どういう雰囲気になっていくべきかを教わっている」と言う。
38歳にして一生懸命。その姿はファンの、チームの心を打つ。チャンスで新井が登場すれば、ファンからはその日一番の大歓声が沸き起こり、打てばさらに盛り上がる。主軸に座る新井が打てば、打線は面白いようにつながる。左手甲を負傷してスタメンから外れた際には、チームの連勝が止まった。代打で出場すれば雰囲気を変えた。広島にとって特別な存在であることに変わりはない。
かつて打点王を獲得した勝負強さに、ベンチを盛り上げる心配りと明るさ。チームリーダーを任された菊池と丸を陰ながら支えている。強いチームには勢いのある若手と困ったときに手を差し伸べるベテランがいる。新井が元気であれば、チームも元気だ。