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高谷裕亮捕手・手に入れた信頼

 



 半信半疑。ホームランの感触ってこんな感じだったのか。思い返そうとしていたとき、右翼手が打球を見送った。5月31日のヤクルト戦(ヤフオクドーム)、1点差に迫られた4回一死一塁。高谷裕亮は右腕・石山の内角128キロのスライダーをとらえた。この1号2ランは、実に08年7月22日のオリックス戦(ヤフードーム、当時)以来7年ぶりとなる一発だった。

「7年ぶりなんですか。そんなに経ってしまったのか…」

 2504日のブランクの期間には09年に結婚し、今年1月には第2子となる女児も生まれた。だが、本業での立ち位置は前進するどころか、むしろ、後ずさりしていた。今季は2月のキャンプで細川、鶴岡だけではなく、5年目の若手・斐紹、拓也にもA組(一軍)を譲り、B組(二軍)スタートだった。チームは新監督を迎え、新たな船出だった。そこでA組の4枠から漏れたことは「構想外」をも意味していた。「悔しさがないと言えばウソになる」。だが、腐らなかった。若手や育成選手に積極的に助言を与えた。教えることで「手本」を見せる立場の自分自身にも、いい意味のプレッシャーをかけた。

 5月29日のヤクルト戦(ヤフオクドーム)から正捕手・細川が一軍復帰し、マスクは奪われた。だが、3試合ぶりの先発マスクとなったこの試合、先発・寺原を5回2失点に導き、貴重な一発も放った。「これからかぶる回数も増える。しっかり、リードしてくれればいいよ」といつの間にか、工藤監督の「信頼」という財産を手にした。ベンチを温め続けた男。そこは陽の当たらない場所だった。ようやく、光に照らされたグラウンドで躍動する時がきた。
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