広島に夢を運んだ放物線だった。8月7日、マツダ広島での
巨人戦。1点を追う9回二死で、
菊池涼介は打席に入った。負ければ2位の巨人とは3.5ゲーム差に縮まる試合。そしてそれ以上に、ペナントレースの流れが大きく傾くであろう試合だった。「何とか塁に出ようと。それだけだった」。それまで4安打。ボールは見えていた。初球。思い切り振り抜いた。打球は左翼スタンドのコンコースまで飛んでいった。「久しぶりの当たりだった。歩かせてもらいました」。インパクトの瞬間にスタンドインを確信。ゆっくりとバットを投げた。
続く丸が四球で歩き、新井がサヨナラ打。ゲーム差を5.5ゲーム差に広げた。新井と上がったお立ち台で「夢が叶った」と菊池ははしゃいだ。ここから広島のVロードははっきりと開けた。
優勝を果たした後、「今思えばあの試合は大きかった」と菊池は振り返る。直接対決でたたき、数字に表れない勝負強さで主導権をつかみ取った。
土壇場での逆転劇は今季の広島を象徴するものでもあった。優勝決定試合まで、逆転勝利数は12球団最多の42度。「最後まで誰1人あきらめず、集中力を持ち続けてくれた結果だ」と緒方監督。きっかけの一打に、たたみかける一打。ビッグレッドマシンガンと呼ばれる打線が優勝へと導いた。
右打ち、エンドラン、バント、そしてこの日の1発。誉れ高き二番・菊池もその中心にいた。