「漢文はチンプンカンプン。古典にはコテンコテン。グラマーには参ったあ」
これは筆者の高校時代、文系志望の生徒が理系志望をヤユする決まり文句だった。しかし、理系志望の生徒が、必ず文系の教科が苦手ということはない。これは理系の教科ができない文系志望の生徒のヒガミだった。「グラマー(GRAMMAR)には参ったあ」には少し説明が必要かもしれない。もちろん英文法のことだが、いまは死語になった「グラマー(GLAMOUR)」という単語があるが、これは「女性の性的魅力」を意味する。で、「参ったあ」となるワケだ。しかし、理系志望の連中は、英文法はむしろ得意だった。
そういうことで、筆者のような堕落した文系人間には、理系人間がうらやましくて仕方がないのだが、今年
ロッテに入団した
田中英祐投手などは信じられない存在だ。野球はプロレベル。卒業したのは天下の京大の工学部。こんなことがあっていいのか!?
こういうプロ野球選手のハシリは、
井手峻投手だろう。父親は著名な脚本家・井手俊郎だが、息子は文系人間ではなく東大農学部卒。67年に
中日に入団したが、投手では1年目に1勝しただけで打者に転向。打者でも成功したとは言えなかったが、本塁打でちょっとした話題になった。
井手は7年目の73年に初めてホームランを打ったが、これは5月5日の
巨人戦(後楽園)。中日は、6対5の勝利。同じ日、神宮では東京六大学野球春のリーグ戦、東大-法大戦があり、東大が7対6で勝利した。野球界はさながら“東大デー”。井手の一打は延長10回に
高橋一三から放った決勝ホーマー(写真)。井手は「今日の夕食は、みなさんにビール1本付けます」と冗談を言ったが、小山武夫球団社長がこれを受けて「今日は飲みたいだけ飲め。オレのおごりだ」。楽しい時代だった。
文=大内隆雄