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山崎夏生のルール教室

投手と打者の間合い、取り仕切るのは審判の役目/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

7月3日の西武ソフトバンク戦、2回裏一死走者なしで打席に立った西武・栗山。ソフトバンク・石川の投じた2球目を見逃したあと、審判に猛抗議


7月3日の西武対ソフトバンク戦(ベルーナ)を観に行きました。2回裏に、いつも温厚な栗山巧選手(西武)が2球目のボール判定に対し、石川柊太投手(ソフトバンク)を指さし、何やら険しい表情で森健次郎球審に詰め寄っていました。それを止めようと一塁コーチや辻発彦監督もなだめに出てきたのですが、一体、何があったのでしょうか? 投球判定はボールでしたから、それに対する不満ではないですよね?

 そのシーンを動画で確認してみました。これはまだ打者が投手に正対しないうちに投げられた反則投球に対する異議申し立てでしょう。公認野球規則6.02・投手の反則行為(a)ボークは13項目あるのですが、そのうちの(5)「投手が反則投球をした場合」に抵触したのではないか、ということです。

 その【原注】には「クイックピッチは反則投球である。打者が打者席内でまだ十分な構えをしていないときに投球された場合には、審判員は、その投球をクイックピッチと判定する。塁に走者がいればボークとなり、いなければボールである。クイックピッチは危険なので許してはならない」と記されています。

 一般にクイックピッチというと走者に盗塁をさせまいと投手がクイックモーションで投げることと思われがちですが、正確にはこのようなクイックリターンピッチのことを指します。思えば、この打席の初球にも栗山選手は打席内で怪訝(けげん)な顔をしていました。2球目ではっきりと、まだ自分が構えていないうちに投球されたと感じたのでしょう。

 これに対し森球審は、栗山選手がすでに打撃姿勢に入っていたと判断し、このルールを適用せずプレーを再開しました。ただ、この行為を指摘された石川投手はその後、きちんと打者との間合いを取ることを意識しており、以後はほかの打者からもクレームの付くことはなく、試合はスムーズに進行しました。

 打席内にいる打者はルール上、いわば受け身の立場で、主導権は投手が握っています。ですからこのようなクイックピッチもさることながら、打者をじらし打ち気をそらそうとセットポジションでの静止状態をことさらに長く続け、打者が待ちきれなくなったタイミングで投球するような悪質な行為をする投手も見受けられます。こういった場合には球審はタイムをかけ、投手に対して警告を与えるべきです。

 お互いの阿吽(あうん)の呼吸はとても大切で、これは相撲でいう立ち合いのようなもの。ですから球審の「タイム」と行司でいうところの「待った」は同じ意味合いがあるのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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