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山崎夏生のルール教室

ルールにない暗黙の了解 指摘を受けて即修正は立派/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

声援のない環境がより声掛けのタイミングを際立たせてしまった


2022年11月の明治神宮大会でのこと。高校の部のある試合で、攻撃側チームに向かって「いつまで声を出しているんだ!」という守備側監督の怒声が響き渡りました。投球動作に入っているのに、仲間を鼓舞する大声が止まなかったからのようです。公認野球規則には声出しの禁止といった条項はありませんが、高野連ではこういった行為を規制する内規のようなものがあるのでしょうか?

 実は私もその現場にいました。この大会ではブラスバンドもなく、観衆も大声での応援は禁じられていましたから、ことさらに選手たちのベンチからの声が響き渡っていました。そんな状況下での出来事でした。

 6.04「競技中のプレーヤーの禁止事項」には相手チームへの悪口や暴言、あるいは言葉や動作で相手の投手のボークを誘発するようなことを禁ずると明記されています。

 ただ、この監督が感じたのはこのルールに抵触するということではなく、マナーの問題だったのでしょう。野球のみならずスポーツにおいては、まず人としての「モラル」があります。お互いが気持ちよくプレーするために、それが「マナー」となります。これが守られないと「ルール」として明文化され、それを破る者が出てくると「ペナルティー」を科さざるを得なくなるのです。公認野球規則に書かれているのは、このルールとペナルティーであり、モラルやマナーに関してはすべてをチームの責任としています。

 しかしルールに書かれていないから何をやってもいいのだ、というわけではありません。「アンリトンルール」(暗黙の了解)をお互いに共有していないと今回のような事態となります。

 例えば相撲の立ち合いやサッカーのペナルティー・キック、ゴルフのパットの場面では観衆さえも息をひそめ、当事者の集中力を削がぬように配慮します。元気な声が飛び交うスポーツ現場は楽しいものですが、それでも状況をわきまえることも大切でしょう。

 ちなみに社会人や大学野球連盟では「投球動作に入ったならば声を出すことを禁じる」は各チームに通達されており、徹底されているようです。同じ大会の大学の部ではそのタイミングでの声出しは一切ありませんでした。高野連ではこの点が各地区によって共通認識には至ってなかったのだと察します。その後、指摘を受けたチームがこのタイミングでの声出しを自粛したことは立派でした。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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