都立勢として、初のセンバツ出場の期待が高まっているのが、都小山台高だ。
昨年12月13日、第86回選抜高校野球大会の21世紀枠の関東・東京地区から推薦された。
1月24日の選考委員会では、全国9地区の候補校から3校が決定する。
過去13年で、東京から同枠で選出された例はない。
昨秋に同校を8強進出へ導く原動力となった右腕は、運命の日を待っている。 取材・文=岡本朋祐
写真=菊田義久
故人の遺志を継ぐ超エリート集団 かつてない新たな歴史が、刻み込まれるかもしれない。私学優勢の東京にあって、都立勢は苦戦を強いられてきた。過去85回でセンバツに出場した例はなく、夏の選手権も都国立高、都城東高(2回)、都雪谷高、国立を含めても東京高等師範付中の5回のみ。この重い扉をこじ開けようと待っているのが、都小山台高である。
菅直人元首相ら著名人を輩出した伝統校は、都下屈指の進学実績の高い「名門」としても知られる。昨年は国公立大に83人、また早大、慶大にも現役で25人の合格者を出した。同校は部活動を班活動と呼ぶ。野球班が「全国区」となったのは、痛ましい出来事がきっかけだった。2006年、当時2年生部員だった市川大輔(ひろすけ)さんが、自宅マンションのエレベーター事故で亡くなる悲劇があった。当日に市川さんが帰宅途中に購入した金属バットは、今も福嶋正信監督のいる教員室に保管。冬季練習中の年1回、班員に打たすという。
「一瞬、一秒を大切にする選手だった。残された我々がやるしかない」。献身的かつひたむきさ。市川さんの代で最後の夏となった07年。墨田工高との東東京大会3回戦で5点差の最終回に大逆転する。奇跡を起こしたのは、市川さんの形見だったのだ。
故人を知る班員が卒業しても、05年から率いる福嶋監督は風化させない。当時、丁寧に記していた野球ノートをコピーして配布。遺志を継いだ都小山台高は以降も、東京における上位進出常連となった。09年には春4強、夏8強。「勉強もやって、都立でも勝てる」。そんな評判が広がり、文武両道を目指すエリートが、継続的に同校の門をたたいてきた。
その一人が昨秋、都8強進出の原動力となった都立の星・
伊藤優輔。1回戦で堀越高、2回戦で早実、3回戦で日大豊山高と、甲子園出場実績のある私学3校を破った。福嶋監督は「実は伊藤は連投が利かない。雨天中止が2度あったことが救われた」と、3回戦前と準々決勝前の“水入り”を快進撃の理由に挙げたが、幸運だけで上位進出できるほど甘くない。伊藤には「全国区」の実力がある。東海大高輪台高との準々決勝で惜敗(3対5)も、主将でもあるエースは36イニングを一人で投げた。
相手から指摘される形で有力1年生を抜てき こんなエピソードがある。一昨年4月末。福嶋監督は練習試合の相手校部長と会話を交わした・・・
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