高校時代は、世代を代表するスターだったがケガなどでレギュラーをつかみ切れなかった。しかし、首位を走る猛虎にとって欠かせない存在だ。野球をチームの誰よりも知っている野球エリートが、プレーだけでなく“言葉”で若きチームをけん引している。 文=佐井陽介(日刊スポーツ紙) 写真=毛受亮介、石井愛子、BBM 試合に出場したら勝利のため、ベンチにいても勝利のために全力を尽くす
声が戦力になる
突然、お鉢が回ってきたのだという。
「普通にホームランで喜んでいたら、えっ、なんでオレ? って。みんな、まだ照れてるんすよね」 北條史也はドタバタの「メダル授与式」を大阪人らしく冗談めかしたあと、茶目っ気たっぷりに「へへっ」と笑い飛ばした。
7月4日、マツダ
広島での広島戦。3回二死一塁、三番・
ジェリー・サンズが
森下暢仁から左越え2ランを放った直後のひとコマだ。
「ジョー行け! ジョー行け! 」
黒マスク、サングラス姿でのんびりしていた男は慌てふためいた。
チーム内では前日3日、一発を決めた選手に「虎メダル」を贈る儀式がスタートしていた。贈呈役はメダルを手作りした
坂本誠志郎のはずだったが、その瞬間、肝心の仕掛け人は投手のキャッチボール相手に走ってベンチにいなかったのだ。
「僕、あのとき、誠志郎がキャッチボールしているのを知らなかったんです。焦りました」 親しみを込めて1歳上の先輩をファーストネームで呼び捨てにしながら、北條は照れ笑いで振り返る。
間一髪で三塁ベンチ最前列に走り、サンズの丸刈り頭にメダルをかけてひと安心。そんなやりとりを見届けて、ナインはまた沸きに沸いた。
2021年は4月24日の練習中に左足首を痛め、1カ月超の戦線離脱を余儀なくされた。出場選手登録を抹消された同日、
井上一樹ヘッドコーチが発した嘆き節が、図らずも北條の現在地を浮き彫りにした。
「あいつはどうしてもベンチに置いておきたい選手。ベンチのムードメーカーでもあり、率先して声を出してくれる。あいつがいないのはちょっと寂しい……」 2日前の4月22日に敵地・
巨人戦で今季1号を放っていたとはいえ、負傷時の成績は9試合出場で打率.222、1本塁打2打点。それでも周囲に絶対的戦力だと言わしめるだけの存在感がある。
「北條の声は本当に戦力になる。すごく勇気づけられる。ビハインドの場面、どうしてもネガティブな方向に行きがちなところを引き留めてくれる声が、本当にありがたい」
そう力説する
藤本敦士内野守備走塁コーチも、その「言葉の力」を認める首脳陣の一人だ。
「いつもタイミング良く声を出してくれますからね。声にも必要な声とムダな声がある・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン