高校時代から、向上心は人一倍だった。プロ野球選手という明確な目標を掲げ、夢を叶えてからも、いろいろなことに励んだ。プロの世界では悩み、迷い、自分で自分が分からなくなったこともあったが、今、左腕の頭の中は、実にシンプルだ。シンプルに考えられるようになった。葛藤を経て、大事なものに気づいたのだから――。 文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=桜井ひとし、佐藤真一、牛島寿人 ゴールはチームの勝利
いつになっても、気になるものだ。福井県立丹生高校野球部監督の春木竜一は、自宅に戻ると、急いでデーゲーム中継の録画を再生する。
教え子である玉村昇悟は、オープン戦の最終戦で結果を出し、開幕先発ローテーションに滑り込んでいた。4月9日の
巨人戦(マツダ広島)は、玉村にとってシーズン2試合目のマウンドだった。
7回途中まで1失点の好投。今季初勝利を挙げ、お立ち台に立っていた。21歳の素朴な青年は、やや訛(なまり)の残る語り口で、場内を沸かせた。
「何とかならんなと思って頑張りました。何とかなりました(笑)」 「歓声もすごくて、お祭り騒ぎでした」 「次の4月16日、僕と秋山(秋山翔吾)さんの誕生日なので。残り、21歳、楽しんで頑張ります」 独特の間合いと、含みのあるユーモアは、ファンの心をわしづかみにしていた。
『タマちゃん』
あどけなさの残る表情と、福井訛りと、ニックネームと。キレのある投球とのギャップに、カープファンは酔いしれる。
「皆さん騙されていますよ。ヒーローインタビューとかで、少し訛りとかが入ってかわいらしいようなイメージも持たれるでしょうが、本当は違います。どちらかといえば、ハートが強く芯の通った人間です。あの姿は愛されると思いますが、実は、とてもストイックで、貪欲。ギラギラしていますよ」(春木監督)
恩師はユーモアも交えながら教え子の人となりを語るが、野球の話となると空気は一変する。マウンドでの姿が、頼もしさを増していたからである。「先頭打者に初球をホームランにされましたが、そこから立ち直りました。これが成長だと思いました」。
この試合、玉村はプレーボールの初球を一番・
オコエ瑠偉にレフトスタンドに運ばれている。しかし、直後の
坂本勇人には・・・
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