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野球浪漫2023

広島・玉村昇悟 “いつもどおり”の大事さ 「気負わずにマウンドに立ちたい」

 

高校時代から、向上心は人一倍だった。プロ野球選手という明確な目標を掲げ、夢を叶えてからも、いろいろなことに励んだ。プロの世界では悩み、迷い、自分で自分が分からなくなったこともあったが、今、左腕の頭の中は、実にシンプルだ。シンプルに考えられるようになった。葛藤を経て、大事なものに気づいたのだから――。
文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=桜井ひとし、佐藤真一、牛島寿人


ゴールはチームの勝利


 いつになっても、気になるものだ。福井県立丹生高校野球部監督の春木竜一は、自宅に戻ると、急いでデーゲーム中継の録画を再生する。

 教え子である玉村昇悟は、オープン戦の最終戦で結果を出し、開幕先発ローテーションに滑り込んでいた。4月9日の巨人戦(マツダ広島)は、玉村にとってシーズン2試合目のマウンドだった。

 7回途中まで1失点の好投。今季初勝利を挙げ、お立ち台に立っていた。21歳の素朴な青年は、やや訛(なまり)の残る語り口で、場内を沸かせた。

「何とかならんなと思って頑張りました。何とかなりました(笑)」

「歓声もすごくて、お祭り騒ぎでした」

「次の4月16日、僕と秋山(秋山翔吾)さんの誕生日なので。残り、21歳、楽しんで頑張ります」

 独特の間合いと、含みのあるユーモアは、ファンの心をわしづかみにしていた。

『タマちゃん』

 あどけなさの残る表情と、福井訛りと、ニックネームと。キレのある投球とのギャップに、カープファンは酔いしれる。

「皆さん騙されていますよ。ヒーローインタビューとかで、少し訛りとかが入ってかわいらしいようなイメージも持たれるでしょうが、本当は違います。どちらかといえば、ハートが強く芯の通った人間です。あの姿は愛されると思いますが、実は、とてもストイックで、貪欲。ギラギラしていますよ」(春木監督)

 恩師はユーモアも交えながら教え子の人となりを語るが、野球の話となると空気は一変する。マウンドでの姿が、頼もしさを増していたからである。「先頭打者に初球をホームランにされましたが、そこから立ち直りました。これが成長だと思いました」。

 この試合、玉村はプレーボールの初球を一番・オコエ瑠偉にレフトスタンドに運ばれている。しかし、直後の坂本勇人には・・・

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