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高木勇人 “打たれ強さ”発揮で輝きを取り戻す

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

ルーキーイヤーの今季はここまで16試合6勝6敗、防御率2.92の成績を残している



「今の苦しい状況をエネルギーに変えられる」と恩師が語る理由


 今季のセ・リーグは、激戦が繰り広げられている。21日現在、わずか3.5ゲーム差の中に6球団がひしめきあい、まさにダンゴ状態だ。

 その中で、リーグ4連覇を目指す巨人の首脳陣は、このピッチャーの復調を首を長くして待っているに違いない。ルーキーの高木勇人だ。

 高木は開幕3戦目、3月29日の横浜DeNA戦でプロ初登板初先発を果たし、6回2失点と好投。巨人のルーキーとしては実に55年ぶりとなる開幕カードでの初勝利を手にした。そこからスタートした連勝街道は約1カ月間続き、無傷の5連勝を飾った。ところが、5月10日のDeNA戦でプロ初黒星を喫すると、今度は一転、勝ち星から見放され、初出場したオールスターまでの前半戦での成績は16試合に登板し、6勝6敗となった。

 しかし、高木をよく知るこの人物は「いい意味で打たれ強い選手ですから、今の苦しい状況をエネルギーに変えて、這い上がってくるはずです」と語る。7年間、高木の変化と成長を間近で見てきた三菱重工名古屋の佐伯功監督である。

 高木はいわば苦労人だ。高校(三重・海星高)でプロ志望届を出すも、結局彼を指名する球団は現れなかった。社会人に入っても、6度、彼はドラフトの日に涙を流してきた。最大の要因は制球難にあった。佐伯監督は社会人時代の高木についてこう振り返る。

「とにかく速いボールを投げたい、プロに行きたいという思いが非常に強いピッチャーでした。だから実戦になると、『抑えてやるぞ』という気持ちが空回りして自分のピッチングができなくなってしまう。力んでコントロールが悪くなるというのが常でした」

 プロ入り後の高木のピッチングを見る限り、コントロールが悪いというピッチャーではまずない。いったい、何が彼のピッチングに変化をもたらしたのだろうか。

「よく聞かれるんですよね。でも、これといったことはないと思いますよ。もともと力のあるピッチャーでしたから、落ち着いて投げさえすれば、それなりの結果は出ていたはずです。だから私はよく『ふつうに投げなさい』と言っていました」

 そして、佐伯監督は「強いて言えば、精神面かな」と言い、こう続けた。

「はじめのうちは、『自分を見てくれ!』という自分本意な気持ちで投げていたんです。スカウトが見に来た時は特に。でも、社会人最後の方は『チームの勝利のために』という気持ちだけで投げていましたね」

 ドラフト指名の決め手となったのが、9月の大阪ガスとのオープン戦だった。その日、巨人のスカウトが視察に訪れる中、リリーフ登板した高木は、3回を投げて9人の打者相手に6奪三振という快投を見せた。この時のピッチングについて、佐伯監督は次のように明かす。

「スカウトの方が視察に来ていることは、高木も知っていました。でも、彼はまったくそのことを意識している様子はありませんでした。直後に迫った日本選手権に向けての調整登板という意味合いが強く、彼はそのことだけを考えて投げていた。だから力むことなく、“ふつうに”投げていただけなんです」

 それが待ちに待ったプロへの扉を開けることにつながったのだ。

 さて、佐伯監督が最もすごさを感じたのは、7年間、一度たりともプロ入りを諦めることはなかったことだったという。

「ふつう、気持ちのどこかで諦めが生じてくるものだと思うんですけど、高木はそういうことがまったくなかった。それどころか、毎日の練習を向上心をもって取り組んでいました。『もっとうまくなりたい』という気持ちがいつも伝わってくるんです。傍から見れば、苦労と思えることでも、彼にとっては苦労ではなかったんじゃないかな」

 佐伯監督曰く、高木は「超」のつくほどポジティブな性格の持ち主なのだという。たとえ勝てる試合を自分の失投で逃したとしても、すぐに気持ちを切り替えられるピッチャーだった。反省しなかったわけではない。失敗を糧にして、次へとつなげようとするのだ。

 今でもよく高木と連絡を取り合っているという佐伯監督。「『自分のやるべきことは変わりませんから、頑張ります』という言葉を聞いて、気持ちにブレがないことを感じた」という。

 長いシーズン、いい時ばかりではない。苦しい時にこそ、どう考え、何をするのかが重要なのだ。落ち込んでいるだけでは、何も生まれないことを高木はこれまでの経験で嫌というほど味わってきたに違いない。打たれ強い苦労人の高木は、これで終わるピッチャーではないはずだ。
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