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週刊ベースボール60周年記念企画

【週ベ60周年記念企画15】『特集 プロ野球選手の夏バテ 対談金田正一・長嶋茂雄』【1958年7月23日号】

 

2018年に創刊60周年を迎える『週刊ベースボール』。おかげ様で、すでに通算3400号を超えている。現在1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永く、お付き合いいただきたい。

巻頭は『躍進東映の牽引車』


表紙は阪神小山正明


 今回は『1958年7月23日号』。創刊第15号で定価30円。カラーページはない。

 巻頭は『躍進東映の牽引車』のタイトルでジャック・ラドラが登場。この年、東映に入団。昨年まではヤンキース傘下ベオニアにいた男だ。父はポルトガル人の祖父、スペイン人の祖母から生まれ、母は中国人とフィリピン人のハーフ、さらに夫人は日系人とかなり国際的というのか、複雑になっている。

 本文の巻頭は『プロ野球選手の夏バテ』。この年は空梅雨で、6月下旬から猛暑が続いていたらしい。春先から絶好調だった国鉄・金田正一も、6月25日に23勝目を挙げてから2連敗。「疲れていることは確かだ。腰がパッと切れないので、球が全然生きない」とこぼしている。

 その後、昼寝やマムシの粉といった選手たちの夏バテ対策、各球団の選手寮での食事メニューに寮長が選手のためにやっている夏バテ対策など、さまざまな記事があり面白い。当時はクーラーなどほとんどなかったはずだ。体を動かす野球選手にとって、いま以上に深刻な悩みだったと思う。

『対決の中にひそむX(エックス)とは?』


対談時の写真。場所は天ぷら屋だろうか


 この号の最大の売りは、表紙文字にもなっている金田と巨人の新人・長嶋茂雄の対談だ。タイトルは『対決の中にひそむX(エックス)とは?』とある。

 まずは先輩・金田の8年連続20勝、64イニング無失点を称え、次に後輩・長嶋のハッスルプレーを称えてと段取りよく(?)進み、当然、話は開幕戦の対決、長嶋の4打席連続三振へと進む。

 抜粋しながら紹介しよう。

金田 結局ジャーナリズムが金田、長嶋というものをものすごく書きたてたね。これによって相当のファンの人が見にきて、どういう結果になるかって好奇心で見られるということが……とにかく怖かった。

 一つはね、長嶋選手はもうずば抜けた技量を大学においても持っていた人で、もちろんプロにおいても最高のプレーヤーと言えるわね。ところが世間はそう見ないよ。やっぱり六大学とプロと比較して見るわけね。だからそういうことにおいては少しいやな気がしたねえ。

長嶋 あの開幕日は生涯忘れられないでしょう。四打席四三振なんて金田さん、寝られなかったですよ、あの日は。ほんと、何だか床についてもおかしくて。寝苦しいとかそういうんじゃなくて、なんだかぼーっとしちゃって。

 もちろん研究はしてたですよ。こういうようなボールがきて、どんなタイミングでくるということは前から知ってたです。知ってたけど、実際ボックス入ってねえ、第一球投げられて、とにかくハッとしたですよ。いやこれはいかんと思ったです。やっぱり案の定ダメだったですね。

記者 ほんと野球史に残るあれは大勝負ですよ。

長嶋 ボールかすったの1個だったですね、ファウルしたの。

金田 あのときは調子よかったんだよ、僕は。

長嶋 ベンチに帰ってねえ、いつも金田さんこんなですかって聞いたですよ。いやいやきょうはまるっきり違う、すごかったって。それを聞いて、それじゃきょうやられたのもしょうがない、よしあすから出直すぞってそういう気持ちになったですよ。

金田 いい勝負だったですよ。

長嶋 勝負って、勝負にならんですよ、あのときは。

記者 しかしお客さんがあれだけわいたのだから。

長嶋 いや、前の日、絶対開幕の日だけは打ってやろうって気持ちあったんですよ。あったんけど、あれじゃいかん(笑)。

金田 野心持ち過ぎたな、ちょっと(笑)。

 金田という大先輩に対し、自分の思いを素直にぶつける長嶋には、やはり大物感がたっぷり漂う。ただ、それ以上に感じるのは、金田の頭の良さだ。

 ナマイキな大卒新人にプロの洗礼、という安易な図式ではなく、周囲が自分と長嶋の対決に「プロ野球対東京六大学」の代理戦争的な意味を寄せていることも理解しながら戦ったことが分かる。それはまるで自分の役割を完ぺきに理解しながら演じる名優のようでもある。

 この対談の中で、金田の予言的な言葉もあったので、それも紹介する。

金田 俺、いつかやられるよ、コテンコテンに打ち込まれてね。ここはあんた、最後に一人でプロ野球の賞というものを一人占めにするから見てなさい。

記者 長嶋さんならきますね。

金田 くるよ。今の時代とそのときは意味が違うからね。もうすべてをさらうときがくるわな。またこういう選手が一人出たんで、これに近い選手が追っかけて出るよ。優秀なプレーヤーが一人出ると、必ずそれに続いてまた出てくるんだ。
 
 その後を知っている、いまのわれわれなら違和感はない。ただ、これは当時、いくら活躍しているとはいえ、まだプロ数カ月の男に球界の大エースが送った言葉なのだ。さらに、その後の王貞治の登場まで示唆しているようではないか……。

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM
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