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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

監督から全幅の信頼を寄せられる東京六大学史上初の女性チーフマネジャー

 

2018年、慶應義塾体育会野球部の主務となった小林由佳マネジャー。200人近い大所帯の部運営の一手を担う


 取材担当窓口なくして、雑誌制作は成り立たない。プロ野球ならば球団の広報担当。高校ならば野球部長(責任教師)。大学野球、社会人野球はチームのマネジャーがマスコミ各社の要望に対応してくれる。ただ、社会人野球は原則、企業の傘下であり、かつては“ノンプロ”と言っていたほど、プロ野球に近い立ち位置にある。

 一方、大学野球は学生が現場の最前線に立っている。合宿所へ電話をすれば、まず、受話器を手にするのがマネジャーであり、野球部の「顔」だ。100人近い寮生活の指導をすべて任され、監督の秘書業務、OB会とのパイプ役、財務、渉外、学校当局との折衝、リーグ戦における連盟運営にも携わる。

 社会に出る一歩手前――。華の大学生活とはある意味で無縁であり4年間、プライベートはほとんどない。大半が合宿所での生活であり、外出と言えば授業、試合会場(神宮)へ行くくらいである。部員が何か問題事を起こせば、管理責任が問われるのがマネジャーだ。仕事を普通にこなして当たり前、失敗すれば一大事……学生でありながら、責任の重い激務なのである。

 そのマネジャーのトップに立つのが「主務」。東京六大学最古、1888年創部の慶應義塾体育会野球部に史上初の女性チーフマネジャー(主務)・小林由佳(3年・慶應女子高)が誕生した。他の連盟では「女性主務」も珍しい時代ではなくなったが、1925年秋に発足した東京六大学リーグにおいては初の幹部だった。

 11月16日に報道各社へリリースが回ってきたが、実は8カ月前の段階で分かっていた話であった。小林マネジャーの同期に男子マネジャーがいたが、今年3月に一身上の都合で退部。3年生は小林マネジャー一人となってしまった。1学年下の男子マネジャーが小林先輩を差し置いて、主務となる選択肢も十分にあり得た。だが、慶大・大久保秀昭監督は小林マネジャーを「次期主務」に推したのである。旧態依然の既成概念を嫌い「パイオニア精神」の強い指揮官だが、何より、全幅の信頼を寄せていたのが根底にある。

 小林マネジャーはとにかく、仕事が早い。ある日の朝、お願い事項をメールで問い合わせると、その日の午後には返信が来る。締め切りに追われる身としては、これほどありがたいことはない。

「既定路線」であるならば、今秋の開幕前に報道しようと考えた。ところが、野球部サイドから「待った」が入った。しかるべきタイミングで発表する、と。初めてのことであるから、順序立てて物事を進めていかないといけなかったという。

 様子を見た上で、小誌「大学野球」の決算号で掲載しようと再考した。発売の段階(11月25日)ではすでに、2018年の新幹部が発表されているはず。ならば、迷惑はかからない。野球部に再度折衝し「了解」を取り付けた。7季ぶりのリーグ優勝決定後、水面下で取材を進めた。新幹部発表は明治神宮大会後。その翌日(17日)には、複数のメディアが報じてきた。

 女性主務は想像以上に大変だと思う。仕事場となる合宿所へは自宅からの通いであり「24時間体制」で、部員を管理することはできない。周囲のサポートなくして、成り立たない。幸い、慶大野球部には協力態勢が整っており、心配は無用と言えるだろう。雑誌制作にあたり、これから1年間、小林マネジャーには、多大な力を借りることになる。

文=岡本朋祐 写真=川口洋邦
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