プロ野球が産声を上げ、当初は“職業野球”と蔑まれながらも、やがて人気スポーツとして不動の地位を獲得した20世紀。躍動した男たちの姿を通して、その軌跡を振り返る。

Vイヤー81年の左腕王国と強力打線

　日本ハムとして球団が生まれ変わり、ニックネームがファイターズとなったのが1974年だ。前身の東映カラーは払拭が図られたことは東映の“暴れん坊”たちを紹介した際に触れた。

　70年代のエースは、東映の“生き残り”でもある高橋直樹だ。卓越した投球術で79年には自己最多の20勝を挙げた口ヒゲとメガネのサイドスローだったが、翌80年オフには広島へ移籍。トレードの交換相手はクローザーの江夏豊だった。続く81年、日本ハムとなって初の優勝を飾ったときにはMVPに選ばれたが、クローザーが試合を締めくくるには、それまで試合を有利に進めていなければならない。投打ともに戦力は徐々に整ってきていたのだ。

　80年は新人で左腕の木田勇が先発投手タイトルを総ナメにする大活躍で新人王とMVPをダブル受賞。だが、高橋直を放出した代償は大きく、日本ハムは前期、後期とも2位にとどまり、シーズン通算では3位に終わった。

　左腕の江夏が加わった81年は、「7回くらいまで抑えれば」と投手陣に余裕が生まれたことが飛躍につながる。パームボールを武器にした木田は前年の疲労も重なって10勝と勝ち星を半減させたものの、同じく左腕の間柴茂有が無傷の15連勝。巨人のV9戦士だった左腕の高橋一三も14勝で続く。そんな左腕王国にあって、貴重な右腕として13勝、防御率2.70で最優秀防御率に輝いたのが岡部憲章。長く投手陣を支えてきた加藤俊夫は故障で離脱したが、５年目の大宮龍男が正捕手に定着、攻撃的なリードで投手陣を引っ張った。

　もちろん打線も負けていない。東映カラーの払拭で張本勲らを放出した穴も大きかったが、78年には強打と巧打を使い分ける熱血漢の柏原純一が加入して主砲に。80年には、ともにフルスイングながら長距離砲のソレイタ、ヒットメーカーのクルーズと、タイプの異なる2人の助っ人が加わり、クリーンアップが完成した。

　リードオフマンは島田誠だ。二番で続いた高代延博（のち慎也）とともに、プロ野球選手としては小柄。79年に俊足と思い切りの良さで自己最多の55盗塁を記録した島田は首位打者や盗塁王も争ったが、終盤に故障、高代も故障が続いたが、それでも高い出塁率で得点源となる。一方、六番の古屋英夫は全試合に出場、全力プレーでチームを支え、下位打線でも大ベテランの井上弘昭、名バイプレーヤーの菅野光夫ら個性派が躍動。“サモアの怪人”ソレイタは44本塁打、108打点で本塁打王、打点王の打撃2冠に輝いた。

　前期はロッテと“日ロ決戦”と言われた首位攻防戦を展開しながら4位に沈んだ日本ハムだったが、後期は8月後半から首位を独走して優勝。ロッテとのプレーオフも3勝1敗1分けで制してリーグの頂点に。セ・リーグの覇者は巨人で、同じ後楽園球場を本拠地とするチーム同士の、史上初の日本シリーズへと突入していった。

82年の後期Vが東京での最後の美酒に

　巨人との“後楽園決戦”は2勝4敗。雪辱を期した82年だったが、Vイヤーの左腕王国は総崩れとなり、前期は2年連続で4位に沈む。そんな中、先発として大ブレークを成し遂げたのが右サイドスローの工藤幹夫だ。後期に入ると、江夏と同じタイミングで移籍してきたものの、その江夏と確執があった高橋里志が先発に回るとチームも加速していく。

　工藤は20勝で最多勝、高橋里は防御率1.84で最優秀防御率。ヒジ痛で我慢の投球を続けていた江夏も広島時代から4年連続で最優秀救援投手となり、日本ハムも2年連続で後期優勝を飾った。だが、これが東京における最後の美酒となる。

　プレーオフは前期を制した西武と激突。大沢啓二監督は、西武の広岡達朗監督が掲げる“管理野球”に「ヤギさんチームに負けてたまるか！」と“口撃”を仕掛け、小指の骨折でプレーオフは無理と言われていた工藤を第1戦に先発させる奇襲を見せたが、江夏が西武のバント攻撃に翻弄され、1勝3敗で及ばず。21世紀に入り、チームが北海道へ移転して3年目の2006年まで、頂点は持ち越されることになる。

写真＝BBM