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プロ野球回顧録

金田正一氏が明かしていた「超スローカーブ」の極意とは?

 

通算400勝をマークした大投手・金田正一氏。現役時代、週刊ベースボールに何度も登場していただいたが、1960年代に掲載されていた当時の名投手たちの「ピッチング・ヒント」の中から、カーブに関する記事を抜粋して掲載していこう。昔の選手は自分の技術をひけらかさないイメージがあるが、ここではプロ野球界の発展のため、金田氏が投げるコツや経験を語ってくれている。

「年々制球力のよい投手の仲間入りができたのは、このスローカーブを練習したおかげ」


国鉄時代の金田正一氏


 速球のことは話し飽きたので、今日は一つ「超スローカーブの極意」をお話ししましょう。誰です、その辺でスローボールのほうが、速球より打ちやすいなどと言っている人は? 絶対この球は、なかなか打てんのじゃ。長嶋(茂雄)や王(貞治)でも、やすやすと打てない秘訣があるのだから……。

 皆さんはひと口に「金田の超スローボール」などと呼んでおられるようだが、ワシのは単なるスローボールじゃない。金田の超スローカーブと呼んでもらいたいね。

 つまり、ユルくても、棒球ではなく、変化しています。これがまず打たれない第一歩だが、その投げ方は長いこと研究して、やっとものにしました。

 別に一本足の王のバッティングを封じるために、練習したものではありません。もう10年近くになりますよ。ではなぜ速球投手のワシが、こんな球を研究したのかというと、それはコントロールの勉強に非常に役立ったからです。荒れ球が多かったのに、年々制球力のよい投手の仲間入りができたのは、実にこのスローカーブを練習したおかげです。だからあんなにユルく、あんなに山なりになるスローカーブでも、ワシのコントロールの良さがお分かり願えるでしょう。この超スローカーブこそが、制球力のバロメーターにもなるわけです。

週刊ベースボールに掲載された図解


 では、どうやって球を握り、どうやって球を切っているのか、図をご覧ください。敵の打者の中にも、テレビの解説者の中にも、ずいぶん勘違いをしている人がありますが、パームボールやナックルのように、手のひらで握るわけではありません。

 普通のカーブと大体同じ握りで、違うところは親指が球の縫い目より内側に入ることと、その場合、親指の腹がブレーキの役目をするように、ピッタリ球にくっつけることです。

金田氏のカーブの握り(1950年代のもの)


 それから写真でも分かるように、普通のカーブほど、中指と人さし指のひねりを利かさないのです。だから、どちらかというと、親指と人さし指の間から球がスッポ抜けるみたいな感じです。

 大ゲサに言うと、球はいったん後ろに(つまり手首に近いほうへ)飛び出るような具合です。それだけでは超スローボールにしかならないから、まさに球が離れようとする瞬間に、親指の腹でブレーキをかけながら、人さし指と中指でわずかにひねり(回転)を与えるのです。

 さあ、皆さん、お分かりになりましたか。しかし、球を切るときの力加減というか、さじ加減はこれ以上、お話しできません。

 ボールは打者の頭よりはるか高いところから、ストライクゾーンへスポリ! と決まる。まともなスイングができないし、タイミングも狂っているから打てないのです。

 ではどうやって、あんな球のコントロールをつけたらよいのだろうか。上を向いて投げてもダメ、下を向いて投げてももちろんダメ。普通のカーブを投げるときと、まったく同じ要領でやらねばいけません。

 あの球は、ワシが小手先だけでほうっているという人もあるようだが、まったくトンデモナイこと。体全体を使い、正しいステップをして、腰を早く開き過ぎないよう注意しているから、打たれないんです。

 もっともワシの体も、あれで結構、疲れてますよ。あっ、とうとういい気になって、今日は秘訣をサービスしちゃった。まあいい、これもこれからの人に役立てば満足としておこう。

(1963年8月26日号掲載)

写真=BBM
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