週刊ベースボールONLINE

背番号物語

【背番号物語】ホークス「#29」逆境に輝く系譜? 山本和範ら流浪の好打者たちから現役の石川柊太へ

 

大阪の最後、福岡の最初


ダイエー時代の山本和範


 育成ドラフト1位で2014年にソフトバンク入団、16年シーズン途中に支配下となって以来「29」を背負っているのは、20年に11勝を挙げて初の最多勝に輝いた石川柊太だ。勝ち星そこ例年のタイトルホルダーに比べれば少ないが、この20年は記憶にも新しい何かと前例のないシーズン。パ・リーグで規定投球回を超えたのは8人だけだったということからも異例のシーズンだったことが分かるが、そんな逆境のシーズンにあって、最多勝はチームメートの千賀滉大楽天涌井秀章と分け合ったもので、このうち規定投球回に届かなかったのは石川だけ。それでも石川は10勝を超えたことにより、勝率.786で最高勝率にも輝いている。

 やはり育成から頭角を現した千賀が支配下として13年から着けている「41」とは異なり、「29」はプロ野球が始まった1936年から存在した由緒あるナンバー。以来、一般的に「29」は投手が多数派を占めてきたが、2シーズン制だった38年の秋季に南海として参加したホークスでは、チームがダイエーとなり、本拠地が大阪から現在の福岡へ移転してからも、こうした傾向とは一線を画していた。

 南海の最後とダイエーの最初、つまり大阪から福岡にかけて「29」を背負っていたのが山本和範(カズ山本)だ。投手として近鉄へ入団、外野手に転向も、6年目のオフには自由契約に。バッティングセンターに住み込みで働きながらバットを振り続け、就任したばかりの穴吹義雄監督に声をかけられ南海へ。「59」から「29」に変更したのは2年目の1984年で、初めて出場100試合を突破すると、翌85年には全試合に出場。その翌86年には球宴にも出場した。

 88年オフに南海はダイエーとなり、本拠地も移転したが、福岡県の出身だった山本にとっては“凱旋”となり、地元の出身ということもあって大人気に。92年には北九州でサヨナラ本塁打を放つと、これでチームがダイエーとなって初めて首位に立つ。翌93年には日本人の選手として、そしてダイエーの選手として福岡ドームで初めて本塁打を放つなど、劇的な本塁打でもインパクトを残した。だが、95年オフにダイエーも自由契約に。古巣の近鉄へ移籍、現役ラストイヤーは奇しくもダイエー初優勝の99年だったが、最後は福岡ドームでのダイエー戦で決勝の本塁打を放っている。なお、復帰した近鉄で着けたのは「29」の数字を引っくり返した「92」だった。

 自由契約という逆境から2度の移籍を勝ち取った山本だが、その前後にもホークスの「29」にも流浪の好打者が並ぶ。1リーグ時代の南海では欠番が多かったが、2リーグ制となり、黄金時代を迎えた南海で一気に風向きが変わった。

必殺の“円月打法”


“円月打法”を駆使した杉山も背番号「29」だった


 山本と同じく近鉄でキャリアをスタートさせ、ここは山本と違って1年目から四番打者を務めながらも、首脳陣との確執によって完全に干され、当時あったトンボを経た三角トレードの形で55年シーズン途中に南海へ移籍してきて「29」を背負ったのが杉山光平。バットをクルクル回す独特の打法は時代劇『眠狂四郎』の主人公が刀を満月のように回して斬り込む“円月殺法”から“円月打法”と呼ばれ、杉山は主に三番打者として移籍1年目からV奪還に貢献した。南海4年ぶりリーグ優勝、2リーグ制で初の日本一を飾った59年には四番に座って打率.323で首位打者に輝いている。そんな杉山も61年オフに阪急(現在のオリックス)へ。それでも64年に復帰、ふたたび「29」でリーグ優勝、南海にとって最後の日本一を支えて、66年オフにバットを置いた。

 杉山の後は短期間リレーが続いたが、79年に「29」となった阪本敏三は阪急の黄金時代に盗塁王も経験した韋駄天。南海4チーム目で、81年の開幕を前に現役を引退した。その後、山本の自由契約で「29」は1年だけ欠番となり、その後継者となったのは80年代に日本ハムの正捕手として活躍したベテランの田村藤夫ロッテを経て加入したもので、ダイエーが3チーム目だ。田村の引退から「29」は一般的な傾向と同様、投手が着けることが多くなったが、加藤領健山崎勝己ら捕手も後継者に並んでいる。

【ソフトバンク】主な背番号29の選手
杉山光平(1955〜61、64〜66)
阪本敏三(1979〜80)
山本和範(1984〜95)
田村藤夫(1997〜98)
石川柊太(2016〜)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング