週刊ベースボールONLINE

MLB最新事情

【MLB】頭脳戦! 新協定を利用してチームを一早く強くするのは誰か?

 

これまで労使協定の変更部分を巧みに利用し、チーム強化を図るGMがいたが、今回の協定合意後でも改正された内容をうまく使用しチームを変革するGMや編成部長が出現するだろうか[写真はセオ・エプスタイン氏]


 MLBを長く見てきて面白いなと思うことは、約5年に一度労使協定が改正され、ルールが変更されると、頭がキレ、実行力のあるGMが、変わった部分を巧みに利用し、補強で優位に立つことだ。

 例えば故意にチーム成績を落とすタンキング。MLBのドラフトは完全ウエーバー制で、成績の悪いチームから指名していた。しかしながら契約額が高騰。スモールマーケットのチームはトップ指名権を持っていても、事前の交渉で契約できないと判明すると、目玉選手を敬遠するようになっていた。

 このような不公平をなくすべく、2011年11月23日にできた協定では、各チームが払える契約金に上限を定めた(ボーナスプール)。しかもトップ選手でもマイナー契約しか結べず、複数年契約もなくなった。ならばとタンキングを即実行に移したのが、カブスのセオ・エプスタイン編成本部長とアストロズのジェフ・ルーノーGMだった。それぞれ11年10月12日、12月8日に就任している。

 カブスの12年は61勝101敗で13年のドラフトは一巡2番目指名権でクリス・ブライアント(現ロッキーズ)を獲得、13年は66勝96敗で14年の一巡4番目でカイル・シュワ―バー(現フィリーズ)を得た。アストロズは12年は55勝107敗、13年は51勝101敗で連続で一巡トップ指名権獲得。14年のドラフトで指名したブレイディ・エイキンとは契約で合意できなかったが、補償で15年の一巡2番目指名権を与えられ、アレックス・ブレグマンを指名した。

 カブスは16年、アストロズは17年に世界一に輝いている。しかしながら今回の新協定でタンキングをする意味がなくなった。23年以降、ドラフトの一巡1番目から6番目の指名権は、プレーオフに出られなかった18球団によるくじ引きに変わったからだ。成績の悪いチームがより上の指名権を得られるよう工夫はされており、一巡1番目指名権獲得のオッズは、成績の悪いワースト3のチームは16.5パーセント、4番目が13.25パーセント、5番目は10パーセント……、17番目は0.36パーセント、18番目は0.23パーセントではあるが、以前のように最悪の成績=トップ指名権ではなくなった。

 加えてカブスは、ブライアントが15年にメジャー・デビューする際に、あえて開幕から最初の12日間はマイナーに置き、サービスタイムの操作を行った。ブライアントは20年シーズン後にFA権を得るのではなく21年シーズン後と遅らされた。それも今回ルールが変わった。新人はシーズン途中のデビューでも、その年の新人王投票で1位か2位になれば、1年のサービスタイムをフルに与えられるようになった。

 加えてチームも有望新人を開幕時からデビューさせ、その選手が新人王となるか、MVP、サイ・ヤング賞投票でトップ3に入れば、球団がエキストラにドラフト指名権を与えられることになった。

 これらの新制度をどうすればうまく利用できるのか。MLBでしばしば監督よりGMのほうが高給なのは、頭脳明晰なGMの価値が認められているからだ。エプスタインもルーノーも今MLB球団内はいないが、誰がうまいアイデアを考えて実行に移すか。GMたちの知恵比べに注目してほしいものだ。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング