敗戦を次に生かす、学習能力

　春の位置づけ。今春のセンバツに導いた慶応高・森林貴彦監督は「出場する大会は頂点、勝利を目指す中で、成長するチャンスを与え、成長してほしい」と語る。2季連続甲子園を狙う上で、さまざまなパターンを試している。

　夏へ向けて引き出しを増やし、多くの選手の経験値を高めさせている中で、不動の正捕手で起用されているのが渡辺憩(3年)だ。

　渡辺は捕手としての理想像をこう語る。

「視野が広くて、周りが見られて、チームの中心的です」

　好きな捕手は「特にいません。ほかの人から見て、先ほど言ったような捕手に見られたい」と自身のスタイルにこだわりを持っている。

　サイン一つ出すにも、責任を持っている。

「ウチは良い投手ばかりで、誰が投げても試合をつくれるので、ものすごく助かります。コントロールも良いので、配球が組み立てやすい。キャッチャー次第で打ち取れますし、キャッチャー次第で打たれる。昨年のチームからベンチ入りさせていただき、先輩たちの負けも知っている」(渡辺)

　敗戦を次に生かす、学習能力がある。今春のセンバツでは仙台育英高との初戦(2回戦)でタイブレークの末、1対2で惜敗した。

「甲子園で良い相手と対戦させていただきましたが、あの展開で勝ち切れないのが、自分たちの弱さ。大変な場面でも勝ち切る」(渡辺)

指揮官が語るポテンシャル

　関東大会出場をかけた神奈川県大会準決勝(5月5日)。慶応高は横浜隼人高に7対2で勝利した。「六番・捕手」で先発した渡辺は、5回表無死満塁から左越えの満塁弾。守っては今大会、急成長している2年生左腕・鈴木佳門を6回1失点、7回からは松井喜一(3年)、9回は小宅雅己と好リードで導いた。

　渡辺は高校通算10号。公式戦は2本目だが、昨秋の日大高との4回戦でもグランドスラムという「満塁男」だ。「チャンスで打つしかない気持ち。ホームランがたまたま、満塁ということです。(横浜スタジアムでの初本塁打で)気持ち良かったです」と汗をぬぐった。

　森林監督は「投手の能力を把握して、どの球を選択すれば良いかを理解している。ゲーム中の配球は任せています」と、背番号2に全幅の信頼を寄せている。指揮官は渡辺のポテンシャルについてはこう語る。

「アスリート型。足が速く、反射神経も良く、ショート、セカンドもできると思います。プレーヤーとして、攻撃でも期待しています。まだ体の線が細い。大学に向けて、(その後の)社会人、プロでもやってくれるだけの期待感を持たせるキャッチャーかと思います」

　慶応高は地元・神奈川開催の関東大会出場を決めた。渡辺は決意を込めて言う。

「昨年の秋も関東大会に出場しましたが、専大松戸(との準決勝で)に負けたので、今回は全部、勝ち切って優勝したい」

　まさしく「グラウンドの監督」と言える存在感。絶対的な司令塔・渡辺がマスクをかぶる限り、慶応高の牙城が崩れることはない。

文＝岡本朋祐　写真＝大賀章好