「思い切り振るのが四番の役割」
法大の四番・内海貴は早大4回戦で逆転2ラン。勝ち点を3に伸ばした
負ければV逸。勝てば、望みがつながる。
法大・加藤重雄監督は1勝1敗1分で迎えた早大4回戦(5月10日)を前に「今日の決戦は、優勝決定戦と同じ」と、学生を鼓舞した。
法大は1対2のビハインドで、最後になるかもしれない9回表の攻撃を控えていた。
三塁ベンチは、あきらめていなかった。反撃の伏線となるビッグプレーがあった。8回裏二死一、二塁からの中前打で、法大の中堅手・中津
大和(3年・小松大谷高)の好返球で二塁走者の生還、早大の追加点を許さなかった。
「野球は流れのスポーツ。中津の送球がなければ、自分のホームランは生まれていない。あのプレーは大きかったです」
法大の四番・
内海貴斗(4年・横浜高)の言葉だ。開幕から3カードは30打数9安打、2本塁打、6打点と打線をけん引も、早大戦3試合は11打数1安打0打点と打撃不振だった。決戦の4回戦も第3打席まで2打数0安打(1犠打)と、精彩を欠いていた。
試合後の会見で法大・加藤監督[右]は「練習はウソをつかない。最後までやる人間が、こういうところで打てる」と、内海貴[左]の努力する姿勢と集中力を称えた
「頼むぞ、四番!」
9回表を前に、ベンチにいるチームメートから激励があった。その思いは、応援席から声援を送る控え部員も同じだった。HOSEIのユニフォームを着て、神宮でプレーする責任を誰よりも感じているのは内海貴である。
「昼の全体練習、夜の自主練習でもメンバーではない4年生が、自分の練習を手伝ってくれる。出ている自分が頑張らないといけない」
一死から途中出場の三番・浦和博(4年・鳴門高)が中前打で出塁した。内海貴は打席に入る前、
大島公一助監督からこう言われた。
「思い切っていけ!! サインは見なくていい。お前の好きなように振ってこい!」
調子が落ちていても、試合が続いているこの短期間で、修正を加えるのは難しかったという。内海にできることは「思い切り振るのが四番の役割」。1ボールからのストレートを強振した。変化球を予想していたが、得意の内角を真っすぐを、迷いなくフルスイングした。
2回戦から3連投の左腕・尾崎は8回から2回無失点で締め、気力の投球。4年生エースとしての仕事を果たした
右越えの逆転2ランである。内海は三塁ベースを回る付近で、控え部員が歓喜する三塁応援席へ、こん身のガッツポーズを見せた。今季3号は、チームメート全員が打たせてくれた本塁打だった。法大はもう1点を追加。8回から4番手で救援した2回戦から3連投の左腕・
尾崎完太(4年・滋賀学園高)が9回裏の早大の攻撃をしのぎ、4対2で勝利した。
「勝ち点を取るか、取らないかで、自分たちの立場が変わってくる。リーグ戦に入って一番、集中して試合に臨んできました。勝ててホッとしています」(内海貴)
東大戦に向けて最高の準備
主砲の「集中力」を、加藤監督は評価した。
「よくやってくれました。感謝の気持ちでいっぱい。逆に野球って怖いな、と……。貴斗はよく練習する。練習はウソをつかない。最後までやる人間が、こういうところで打てるのかな、と。普段から『相手があるんだから、勝っても負けても冷静に、スポーツマンシップを重んじて』と指導していますが、自分から大きな声で喜んだのは恥ずかしい……。本当にうれしい1勝でした」
早大と並ぶ46度のリーグ制覇を誇る法大は2020年春のリーグ優勝を最後に昨秋まで5位、4位、5位、4位、5位と低迷が続いていた。早大4回戦を制して勝ち点3(6勝4敗2分)となり、V戦線に踏みとどまった。
法大の最終カードは5月20日から予定される東大戦。明大が開幕から3カード連続勝ち点(6勝1敗1分)で首位に立っており、5月13日からの早大戦に連勝すれば、リーグ3連覇が決まる星勘定である。
「リーグ戦は最後まで何が起こるか分からないので、東大戦に向けて最高の準備をしていきたい」(内海貴)
意地と意地が激突した、法大と早大。2勝先勝の勝ち点制である、東京六大学の「対抗戦」の醍醐味を見た、白熱の4試合だった。
写真=矢野寿明