アマで目立った実績はなしも
今季、ドラフト3位で巨人に入団した田中千
巨人は守護神・
大勢につなぐ「8回の男」がポイントになっている。5月は2日の
ヤクルト戦(神宮)から8回に6試合連続失点。勝負どころで踏ん張れず、5日からの
中日戦(バンテリン)で同一カード3連敗を喫した。8回を任せるセットアッパー候補だったこの男も、結果を残せなかった悔しさを糧にファームで心身を鍛え直している。ドラフト3位・
田中千晴だ。
189センチの長身から投げ下ろす150キロを超える直球、落差の鋭いフォークが武器の本格派右腕。ただ、開幕から稼働する即戦力という触れ込みではなかった。浪速高では2年秋からエースになったが、甲子園出場なし。3年夏も南大阪大会2回戦・三国丘高戦に7回3失点と力投したが、1対4で敗れた。国学院大では2年秋にリーグ戦初登板したが、その後は右肘の故障でマウンドから1年以上遠ざかる。4年春のリーグ戦で復帰すると、直球が自己最速の153キロを計測して一躍プロ注目の右腕に。4年秋にリーグ戦初勝利を含む2勝1敗、防御率1.42の好成績で2季ぶり4度目の優勝に大きく貢献した。
アマチュアを取材するスポーツ紙記者は「大学で目立った実績はないですが、潜在能力はドラフト1位の投手たちに引けを取らない。線が細く、体力にも不安があるので1年目から一軍でバリバリ投げるというイメージはないですが、2、3年後が楽しみ。先発ならエース、リリーバーならセットアッパー、抑えとして才能を開花させてほしい」と期待を込めていた。
デビューから7試合連続無失点
一軍のマウンドで輝く時期は、周囲の予想以上に早く訪れた。開幕二軍スタートだったが、4月13日に一軍昇格すると、プロ初登板となった同日の
阪神戦(東京ドーム)から7試合連続無失点。奪三振能力が高く、走者を背負っても動じない。怖いもの知らずの右腕は結果を積み上げることで、首脳陣の信頼を高めていった。
だが、相手球団も対策を施してくる。田中千も疲労が出た部分はあっただろう。5月に入ると、3試合の登板で計8失点と痛打を浴びるマウンドが続く。今月5日の中日戦(バンテリン)で1点リードの8回に託されたが、一死二、三塁から
細川成也に逆転の2点適時打を浴びると、続く
石川昂弥に左翼へ2ランを被弾。真ん中に入った138キロのフォークをはじき返された。翌6日に登録抹消。10試合登板で0勝2敗3ホールド、防御率6.97という成績が残った。
「日本の球界を変えるような投手に」
他球団のスコアラーは、田中千についてこう分析する。
「まだまだ成長過程の投手ですが、あれだけ投げられるのはたいしたもの。鍛えて体が厚みを増せば、直球の球速はさらに上がるでしょう。イメージとしては
オリックスの
山崎颯一郎ですかね。すごい投手になる可能性を秘めていると思います」
順風満帆な野球人生を送れる選手はいない。超一流と呼ばれる選手たちも、試練や壁を乗り越えることでステップアップしていった。大卒1年目の22歳。同学年には
戸郷翔征、
直江大輔、
横川凱と刺激を受け合いながら成長できる仲間たちがいる。田中千は昨年11月に都内で行われた入団会見で、「環境に慣れることが第一だと思います。そこから一歩一歩、自分の色を出せるようになれば、(一軍で)投げられると思っています。貯金をつくれる投手になりたい。日本の球界を変えるような投手になりたいです」と意気込みを語っている。
巨人は救援陣がウィークポイントだ。田中千にも必ずチャンスが再び巡ってくるだろう。成長した姿で一軍のマウンドに戻ってきてほしい。
写真=BBM