週刊ベースボールONLINE

HOT TOPIC

リニューアル改修できない神宮球場。甲子園球場との3つの違い

 

未来の野球ファンにつなぐ唯一の方法


明治神宮野球場は1926年に竣功し、伝統と歴史がある。32年に完成予定の新球場は、隣地に新たに建設される計画だ


 明治神宮外苑再開発により、1926年に竣工した明治神宮野球場を取り壊し、2032年に新球場が完成する予定となっている。現在の秩父宮ラグビー場の付近に、新たに建設される計画だ。なぜ、現存の球場をリニューアルすることができないのか。

 明治神宮野球場・永渕義規球場長は言う。

「2013年から3年のオフシーズンを利用し、来場者の安全性を向上すべく、耐震補強工事を実施しました。構造耐震性能を有する建物ではあるものの今後、100年を見据えるとご来場者、選手にとって、大きな課題を残しています。近い将来、限界がくる可能性は否定できないのです。未来の野球ファンにつなぐには、隣地での建て替えしか、方法はありませんでした」

 そこで、歴史ある球場として比較材料となるのは、1924年に開場した阪神甲子園球場だ。

 阪神甲子園球場は2007年から3年間、オフシーズン期間を利用し、約200億円をかけてリニューアル工事を実施した。こうしたリニューアル(リノベーション)により維持している球場は甲子園のほか、アメリカではフェンウェイ・パーク(1912年開場)、リグレー・フィールド(1914年開場)の例がある。

 また、隣地に建替えた球場の事例としては、後楽園球場(1937年開場→東京ドーム)、ヤンキー・スタジアム(1923年開場→新ヤンキー・スタジアム)、コミスキー・パーク(1910年開場→ギャランティード・レート・フィールド)がある。

「工期の確保」「外周スペース」「建物の大きさ」


 神宮球場がリニューアル改修の難しい理由。甲子園球場との根本的な違いが3つある。明治神宮野球場・永渕球場長は見解を示した。

【工期の確保】
 甲子園球場は先述のように2007年から09年までのシーズンオフ期間を利用し、リニューアル工事を実施。阪神の公式戦終了後10月上旬から3月中旬まで5.5カ月の工事期間を要したが、神宮球場の場合、ヤクルトの公式戦終了後、甲子園と同じ対応を取れない。10月は東京六大学秋季リーグ戦が4週ほど残り、最終週には早慶戦が予定され、また、高校野球東京大会の準決勝・決勝が11月上旬、明治神宮野球大会が11月中旬以降に開催されるためである。甲子園球場は10月以降、学生野球が開催されないことが大きな違いである。

【外周スペース】
 甲子園球場(敷地面積:約54,000平方メートル)はリニューアル工事前から球場建物を取り巻く外周の歩行者動線を、車両が通行することはなく「歩車分離」がなされていたことが大きい。神宮球場(敷地面積:約42,000平方メートル)の場合、敷地の特性により、大きな課題である歩車分離問題を解決できない。そのため、プロ野球開催の際、プロ選手の車両は試合終了後30分程度出庫できず、大変、不自由な環境を余儀なくされている。

【建物の大きさ】
 外周だけでなく建物の大きさ(延床面積)の違いにより、もともと備わっている施設も異なる。甲子園球場の場合、リニューアル工事前から神宮球場と比較して球場内部の施設が充実しており、リニューアル工事において新たに計画する必要がなかったものがある。例えば、球場内スタンド下の練習場は神宮球場にはなく、学生野球の次試合の選手は、歩行者動線である外周でウォーミングアップをせざるを得ない状況だ。神宮球場の内野アーケード下ではスペースが足りず、新設することができない。また、その他の不足する施設や課題を解消するために新たな機能をアーケード下に計画しても、現在あるアーケード下の機能やお客様の動線を外周に押し出すこととなり、「外周のスペース不足」という課題をさらに、悪化させてしまう。

 このように甲子園球場と神宮球場の条件の違いにより、仮に工期問題を解決したとしても、大規模リニューアル工事は実施できず、根本的な課題解決をすることができないのである。

 2012年から現職である永渕球場長は「取り壊すことについては、私自身も非常に寂しい限りです」と、29年勤務する神宮球場への愛着を語った上で「球場を建て替えれば、すべてが解決できる。お客様や選手の皆さんに安全と快適が提供できる。ご理解をいただけると、ありがたいです」と話した。

 学生野球、プロ野球と数々の名勝負を展開してきた神宮球場は2026年に100年を迎え、新たな一歩を踏み出そうとしている。32年に完成予定の新球場は、現球場にある施設の一部の移設を検討するなど、みどりあふれる広場と一体となった、開放感あるスタジアムとなる予定だ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング