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「成長したもんですよ」中井哲之監督も下げた目尻 明大・宗山塁&大商大・渡部聖弥が母校・広陵高で原点回帰

 

お客さんとしてではなく


練習前、明大・宗山[左から3人目]と大商大・渡部[同2人目]は広陵高・田中清峰理事長[左端]にあいさつした。右端は広陵高・中井監督[写真=宮原和也]


 父のように慕う恩師が陣頭指揮を執る母校に、1年ぶりに戻ってきた。

 2024年のドラフト候補に挙がる明大・宗山塁と大商大・渡部聖弥が12月26日、出身校である広陵高(広島)の練習に参加した。

 お客さんではない。一般的な練習参加でもない。宗山は2泊3日、渡部は1泊2日の日程で広陵高の野球部員が共同生活する清風寮に寝泊まり。朝6時の起床から夜10時30分の消灯就寝まで、現役球児と同じサイクルで回った。広陵高は学校、寮、グラウンド、室内練習場が同敷地内。高校時代に原点回帰した。

 チームを率いて30年以上の中井哲之監督の「親心」だった。明大・宗山は2年春、東京六大学で首位打者、夏には侍ジャパン大学代表、チームしても春秋連覇、明治神宮大会優勝と飛躍の1年を過ごした。渡部も2年秋に関西六大学リーグ記録を更新するシーズン5本塁打。12月には2人そろって大学日本代表候補合宿(愛媛・松山)に招集された。2人は謙虚な性格。広陵高で宗山は主将、渡部は副主将を務め、人としての芯もしっかりしているが、周囲の注目度は高まるばかりだ。浮かれることも決してないが、中井監督は念には念を入れて「こちらから集合をかけた」と、年末の特別合宿に呼んだのである。

 広陵高は12月末、各年代の卒業生が中井監督の下へ1年間の報告を兼ねて、あいさつに出向く慣習がある。密の濃い高校3年間を過ごし、中井監督は教え子を「家族」と位置付ける。コロナ禍で中止となっていたOB会主催による少年野球教室が、4年ぶりに開催される。大学生、社会人があいさつを兼ねて練習参加することはあっても、宿泊を伴うのは異例だ。

 2023年7月、宗山と渡部は2人そろって侍はパン大学日本代表でプレー。日米大学選手権優勝に貢献した。宗山は3年秋を終えて94安打、渡部は通算7本塁打と、それぞれキャリアを積み上げた。2人は今オフを控えた11月、中井監督に連絡。「2人が参加させてくださいと言ってきた。成長したもんですよ」。指揮官は目尻を下げる。24年は進路をかけたドラフトイヤー。宗山は明大で主将、渡部は大商大で副将となり、自覚が行動として出たのだ。

高校生にとってこれ以上ない学びの場


約90分にわたるウォーミングアップでは、現役部員から走り方を指導された[写真=宮原和也]


 練習は朝9時からスタート。ウォーミングアップはたっぷり90分だ。広陵高は冬場に専門家を呼んでの走り方のレッスンを受けた。チームトップの脚力を誇る田村夏芽(2年)が、先輩2人にレクチャー。後輩の助言に、熱心に耳を傾けている姿が印象的だった。

 キャッチボールの後は内、外野に分かれての守備練習。今度は宗山と渡部が指導役となり、実際のプレーで模範を見せていた。「高校生からしたらアマチュアトップレベルの選手で、あこがれの存在。後輩も楽しみにしていました。教えることが、自身の確認になる」(中井監督)。約90分、みっちりと基礎練習で汗を流し、充実の午前練習は終了した。

 昼食を挟んで、午後は実戦メニューが組まれた。広陵高は今秋の中国大会で3連覇。同メンバーが守備位置に就き、宗山、立正大・丸山駿也(3年)、渡部の順で打席に立った。マウンドに立ったのは今春のセンバツ4強、夏は3回戦に進出した148キロ右腕・高尾響(2年)である。宗山は1ボールから2球目のスライダーを右越えアーチ。いきなりの一発でグラウンドは引き締まった。渡部も持ち味の鋭い打球を連発。宗山は3投手から8打数4安打(1本塁打、2二塁打)と貫録を見せた。

 1年秋から正捕手で、高尾とコンビを組む主将・只石貫太(2年)は、こう明かした。

「宗山さんはミートポイントが近く、ミスショットが少ない。どの球種でも、コンタクトしてくる。渡部さんは振る力がものすごく強くて、怖かったです(苦笑)」

 高尾もこれ以上ない、学びの場となった。

「宗山さんから聞きましたが、力んだまま投げていくと、打者はタイミングを取りやすい、と。できる限り、力を抜いて、リリース時に集約することで、バッターに考える時間を与え、効果的である、と。課題を気づかせていただき、ありがたかった。自分の持ち味であるキレとコントロールを意識していきたい」

 途中、3人が連続して凡退した際は、中井監督が「行け!」と本塁とライトポールを往復させた。グラウンド内はダッシュという決まりがあり、少しでも気を抜けば「おい、大学生、遅い!!」と容赦ないゲキが飛ぶ。宗山、渡部は1年ぶりの指導に、背筋を伸ばした。

中井監督は「教育者」


メニュー最後の伝統の「45[ヨンゴー]」では明大・宗山がトップでゴールした[写真=宮原和也]


 紅白戦後はシートノック、フリー打撃、ロングティー。最後は「ヨンゴー(45)行くで〜」との中井監督のかけ声で、本塁付近に集合。左翼ポール手前→中堅の定位置→右翼ポール手前の三角走を45秒以内で走破しなければならない広陵高の伝統メニューだ。4班に分かれ、最初のグループ(メンバー&大学生)を走った宗山はトップでゴールし、存在感を示した。全員でグラウンド整備し、ミーティングが終わったのは17時48分。すっかり日没し、約8時間に及ぶ全体練習を終えた。

 夕食後も2人はアドバイスを続けた。自主練習も広陵高の伝統であり、就寝前まで付き合った。現役としては夢のような時間だった。

「後輩に教えることで、新しいヒントが見つかる。自分のためにもなります。広陵グラウンドの空気を吸うと、自分自身の原点に立ち返ることができる。大学卒業後も毎年、足を運んでいきたいと思います」(宗山)

「広陵高の3年間で教わったのは、寮生活を通じての人間的成長です。現役選手として続けられるのは長くて、あと20年。その後の人生のほうがはるかに長いですから、人としてこれからも磨いていきたいと思います」(渡部)

 中井監督は言う。

「私は、野球はよう分からんのです(苦笑)。私は自分の両親のおかげで、人の育て方、正しく生きることは、教えることができる。便利な時代になっても、人は変わらんのです」

 中井監督は「自分は野球の監督ではない。何だと思う?」と2人に質問した。即答した。

「教育者です!!」(宗山、渡部)

 指揮官は裏表なく、すべて本音でぶつかる。28日には100人以上の卒業生があいさつに訪れる。そして、29日のOB会行事では、さらに中井ファミリーの数は増えるという。教え子たちが立派な姿になって、母校に戻ってくることが、中井監督の最大の喜びである。

文=岡本朋祐
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