最終戦を待たずに2年ぶりBクラスが決定したDeNA。5シーズン指揮を執ったラミレス監督の退任が決まり、現在は新しい組織づくりが動き出している。新監督には、三浦大輔二軍監督の昇格が決定的だ。2012年の新球団発足から10年目を迎えるDeNAの再建には、どんな体制、戦略が必要なのか。 写真=BBM 監督就任が濃厚な三浦大輔。今季は二軍で指揮を執り、イースタン・リーグで優勝を争った
優勝を逃し、今季で退任。佐野の発掘が最後の功績
穏やかな表情で切り出した。勝負の厳しさを知る、ラミレス監督の意思表示だった。「みんながすごく頑張ってくれたにもかかわらず、こういう結果を招いた。責任というのはしっかり取らないといけないと思い、辞任することを決めました」。1対2で
広島に敗れた10月24日の試合後(横浜)。三原一晃球団代表とともに会見に臨み、今季限りで退任することを発表した。球団へ申し入れたのは、セ・リーグ優勝の可能性が完全消滅した前日の23日。「素晴らしいチームを用意してもらい、自分が信じるやり方でしっかり決断してきた。後悔は一切ありません」と潔かった。
就任5年目。着実に地力をつけ、堂々と宣言できるようになった。「優勝するために必要な戦力はすべてそろっていて、そのためにプレーしてきた。春から素晴らしいキャンプを送ることができ『優勝するためのすべてのものは整っている』という状況だった」。攻撃の大看板だった
筒香嘉智がメジャー・リーグ挑戦。MLB通算33本塁打の
オースティンで穴を埋め、フロントの動きも迅速だった。2月の沖縄・宜野湾キャンプの前日ミーティングでは三原球団代表が「筒香がいなくなったから弱くなった、と絶対に言わせないように」と全員に呼び掛け。長打力重視だった指揮官も「スモールとビッグのベースボール。2つをうまく使い分けて機能できれば」と柔軟な采配で乗り切る構えだった。最も必要だったのが現有戦力の頑張り。最大のサプライズは
佐野恵太だった。
今季大きな躍進を果たしたキャプテンの佐野を中心に、チームは新たなスタートを切る
「キャンプ、オープン戦で四番を打たせたい。一番、期待している。打率は.290、20発、80打点はできる」。まだ無名だったプロ4年目。昨年は代打の切り札として台頭し、ラミレス監督が重い十字架を背負わせた。背番号25の後継者として四番、左翼、そして主将にも指名。勇気ある決断が見事に当たった。開幕から快音を残し続け、12球団最速でシーズン100安打。9月の時点でも打率.350のハイアベレージだった。「筒香さんのマネをしろと言われても、簡単にはできない。自分らしく明るく一生懸命やりたい」とは新主将としての決意。
宮崎敏郎や
大和、
戸柱恭孝ら先輩選手は後方から支援し、ベンチの雰囲気も絶えず明るかった。セ・リーグトップの打率.328。開幕28試合目で1号と苦しんだ長打も20本塁打と持ち直し、10月には球団タイ記録となる5戦連発を放った。ラミレス監督の辞任を受け、25歳のリーダーは「常日ごろからポジティブなお言葉を掛けてもらい、心強かったです」と感謝。成長を信じた大胆な選手起用は、前任者譲りでもあった。
10月24日、ラミレス監督の退任が発表。5年でAクラス入り3度も、優勝には届かなかった
2012年からDeNAに土台をつくった中畑監督
新球団としてDeNAベイスターズが誕生した2012年。「球場は『熱』だと思う。熱がなければ、感動も喜びも生まれない。やるからには、てっぺんを目指さないと!」と声を張り上げたのが
中畑清監督だった。前年の11年まで4年連続で最下位。観客動員でも伸び悩み「(球団)事務所にも元気がない。人の目を見てあいさつをしない。この姿勢は大嫌いです」と組織ごと改革しようとした。就任1年目は首位・
巨人と41ゲーム差の最下位。「このチームがどのように育っていくのか。選手が一人前になっていく姿を見られればいい」と主将に抜てきしたのが当時26歳の
石川雄洋だった。
「俺にはお前の才能が見える。お前を信じて使う」と発展途上だった
梶谷隆幸を熱く激励した。後に日本代表の四番を張る筒香にも容赦しなかった。「10年に1人の逸材とか言われて、本人にもそういう意識があるんじゃないか。荒療治をしないと」。5位に終わった翌13年の秋季キャンプ。たった1本塁打に終わった和製大砲をメンバーから外した。突き放すと同時に、感じ取っていたのはスターとしてのオーラ。14年から梶谷とともに外野へのコンバートを命じ、しっかりと活躍の下地をつくった。
三上朋也や
山崎康晃はルーキーでも迷いなく抑えに抜てきし、プロ2年目の
三嶋一輝を開幕投手に指名。救援失敗が続いた
山口俊(現ブルージェイズ)は先発転向によって蘇生させた。
中畑監督は最後まであきらめない野球にこだわった。4年間Bクラスに沈んだが、チームの礎を築いた
三浦新監督が目指す新チームの輪郭
中畑前監督、ラミレス監督ともに常に「ファン」の存在を意識してきた。それは新監督と目される三浦大輔二軍監督も同じだろう。大洋時代から横浜ひと筋で通算172勝。全国的な知名度を誇る「ハマの番長」だ。16年に引退し、昨年は一軍投手コーチを務めた。何よりの強みは現役時代から汗を流した選手が多く、チームそのものを熟知していることだ。
今永昇太や
東克樹が手術によって離脱している先発陣の整備。不振から抜け出せなかった守護神・山崎の復活も大きな仕事だ。躍進に欠かせない若手の台頭についても、今季ファームを指揮していることで各選手の性格や特徴を把握。先に二軍監督を経験し、参謀役として欠かせない
万永貴司二軍総合コーチの存在もカギを握りそうだ。
今季はファームで三浦二軍監督を支えた万永コーチの一軍ヘッドコーチ就任は、十分に考えられる
三浦新監督の誕生で、空席となった二軍監督には
仁志敏久氏の就任が有力視されている。巨人の二塁手として4度のゴールデン・グラブ賞。07年から3年間は横浜に在籍し、三浦二軍監督ともプレーしている。第一に期待されるのが二遊間の強化。低迷期から二塁手として貢献してきた石川が今季限りで退団し、33歳の大和や31歳の宮崎、
倉本寿彦も来年1月に30歳を迎え、中堅からベテランへ差し掛かるころだ。ドラフト1位ルーキー・
森敬斗をシーズン終盤に一軍へ上げプロ初安打を経験させたのは、ラミレス監督らしい用兵。高卒新人が積んだ経験は生きるはずで、10月に行われたドラフト会議では
牧秀悟(中大)や
小深田大地(履正社高)と内野の新鋭もバランス良く迎え入れた。NPBで指導経験こそないが、侍ジャパンでは内野守備走塁コーチを経験。仁志氏が培ってきた緻密な野球を、いかに落とし込めるかにも注目だ。
二軍監督には仁志氏が有力視される。技術に造詣の深い、球界きっての理論派だ
DeNA創設から4年間は6位、5位、5位、6位。痛みを伴いながらまいた種は花を咲かせ、17年に日本シリーズ進出、昨年はリーグ優勝した98年以来となる2位に食い込んだ。来季は節目の10年目。妥協することなく、新たな船出の準備を整えている。