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Power Push 2021 令和に輝く若き才能たち

楽天・渡邊佑樹インタビュー サイドスローで生き抜くために「先発をやるにしてもリリーフをやるにしても結局、今いる場所が自分の稼いでいく道」

 

貴重な中継ぎサウスポーとして、開幕から石井一久GM兼任監督の期待に応える働きを見せている。ワンポイント起用にとどまらず、1イニングを任される変則サイドハンド左腕として─。待ちこがれた一軍の舞台での挑戦が本格的にスタートした。
取材・構成=阿部ちはる 写真=井沢雄一郎


 開幕ダッシュに成功した楽天を支えているのは伸び盛りの若手たちだろう。その一人が渡邊佑樹だ。ドラフト4位のプロ4年目ながら育成契約、サイドスロー転向と苦しい時間を経て、今季は開幕一軍を勝ち取った。開花の兆しを見せる26歳の苦労人は、成長を続けながら不動の信頼を勝ち取っていく。



──開幕を一軍で迎え、7試合に登板(4月15日時点)。ここまでの自己評価は。

渡邊佑 (投球)内容が決していいわけではないのですが、それなりにやれているなとは思っています。ここまでは失点を少なくできているので、その点ではチームに貢献できているのかなと。打たれた次のバッターこそ大事にして投げるということを、今後もしっかり意識しながらやっていきたいです。

──リリーフとして、厳しい場面での登板が続いています。

渡邊佑 一軍の、さらに緊迫した場面での登板は初めての経験なので、すごく新鮮です。もちろん難しさもありますが、抑えたときのファンの方の拍手だったり、ベンチからの「ナイスピッチ」という声がとてもうれしいですし、それらがやりがいになっていますね。

──難しさというのは。

渡邊佑 これだけ多くのファンの前で投げることは二軍ではなかったですし、一軍の打者はスイング一つを取ってもそうです。ボールの見逃し方などもレベルが高いですから、そこで抑える難しさは確かにありますね。

──そこに対応するために意識しているのはどういったことでしょうか。

渡邊佑 1月の自主トレからずっとやっているのは、真っすぐを“強く”投げるということです。変化球も大事ですが、やはり一番は真っすぐを強く投げること。そのためにキャッチボールやトレーニングはしっかりやってきましたし、今のところはそれがちゃんとできているのかなと思っています。

──3月31日ロッテ戦(ZOZOマリン)では1点リードの7回一死二、三塁と、しびれる場面でマウンドへ。

渡邊佑 勝っているゲーム、接戦の状況で投げるというのはやはり緊張しますね。ただ、ああいう場面でマウンドに立つからには、自分の立場とかは関係なく絶対に0点に抑えたい。緊迫した場面で使ってもらえたことに感謝して、しっかりチームのために腕を振っていこうと考えていました。

──代打・角中勝也選手、田村龍弘選手と強打者を相手に無失点でした。

渡邊佑 あの場面を抑えることができて、さらにやりがいを感じましたし、これからもあのような緊迫した場面で投げられるようになりたいなと、あらためて思いましたね。

──プロ初ホールドも挙げました。

渡邊佑 50試合近く投げることができれば、それなりの結果もついてくるかなと思ってずっとやっていたので、ホールドはあまり意識していませんでした。それよりも、抑えられたことがうれしかったですね。勝っていても負けていても、言われた場面で行きたいと思っているので、登板数を求めてやっていきたいです。

4月3日のオリックス戦[楽天生命パーク]では、1点リードの8回に酒居に打球が直撃して緊急登板。一死二、三塁のピンチを背負うも無失点で切り抜け、鈴木大地[背番号7]と笑顔でタッチを交わす


──4月3日のオリックス戦(楽天生命パーク)では、8回に酒居知史投手が打球を受けたことにより緊急登板に。無死一塁という状況でした。

渡邊佑 1度肩は作っていて、キャッチボールもしていたのですが、まさかあのような状況で行くことになるとは予想していなかったので、緊張もしましたし、ビックリもしました。ただ、打球が当たったときにはもう、気持ちをつくっていましたね。

──最初の打者・ジョーンズ選手に死球を与え無死一、二塁に。

渡邊佑 あのときは正直、終わったなと(苦笑)。だから、あとはもう開き直って投げるだけでした。そのあとの打者を抑えることができ、結果的に開き直れたことがいい方向につながったのでよかったです。

──最後は安達了一選手を空振り三振に斬って取りましたが、このときに投げたのはシンカーでした。

渡邊佑 サイドスローにしてから、スライダーやシンカーといった逃げる球が大事になってくると思ったので、ずっと練習していたボールの一つです。

──サイドスロー転向が今季の飛躍につながっています。昨オフの11月に育成契約が伝えられた際、石井一久GM兼監督からサイドスロー転向を打診されたそうですね。

渡邊佑 それまでも、いろいろな方に腕を下げてみないか、という話をされたことはあったんです。そして高梨さん(高梨雄平巨人)を(トレードで)出したことでそこのポジションが空いているというのは自分でも分かっていましたから、打診されたときには納得しましたね。

──これまでやってきたことを変えることに抵抗はありませんでしたか。

渡邊佑 それはまったくなかったです。一軍で投げて成功したわけでもなかったので……。不安はありましたが、やらないという考えにはなりませんでした。

できることを一つずつ


 18年にドラフト4位で入団も、昨季までの一軍登板がわずか1試合で、昨年11月に育成契約を伝えられた。腕を下げ、背水の思いで新たな道を切り開くと、一軍の春季キャンプメンバー入りを果たし、3月4日には支配下登録を勝ち取った。覚悟を決め、与えられた場所で大輪の花を咲かせるつもりだ。



──あらためて、育成契約を伝えられたときの思いを聞かせてください。

渡邊佑 悔しい気持ちはもちろんありました。ですが、ずっと一軍で投げることができていなかったですし、仕事ができなかった申し訳なさも、もちろん感じていましたので。そこはきちんと受け入れて、次に向かって新たにやろうという気持ちでしたね。

背番号「150」で臨んだ今年の春季キャンプでは、新フォームでアピール。約4カ月という短期間で支配下返り咲きに成功した


──オフの自主トレでは高梨投手に弟子入りしました。

渡邊佑 初めての経験で、ほぼすべてと言っていいほど分からないことばかりだったので、自分で考えるだけではなく、ほかの人の意見をしっかり聞き入れてやっていきました。高梨さんは楽天にいたころから何度か話はさせてもらっていて、感覚だけではなく、いろいろ考え、さらにそれを言語化してやっている方だというのは分かっていたので、高梨さんに頼めばいろいろ教えてもらえるのではと思い、僕からお願いしましたね。

──投球フォームだけではなく、トレーニング方法も学んだそうですね。

渡邊佑 フォームも大事ですが、そのフォームで投げるためのトレーニング、というのを大切にしている方だったので、そこは僕も見習ってやっています。

──具体的にはどういったトレーニングなのでしょうか。

渡邊佑 体幹トレーニングやウエート・トレーニングだけではなく、体をうまく使うためのアニマル系のトレーニングも取り入れました。これは、どうやって体を動かしているのかを考えてのトレーニングですね。野球の技術だけではないトレーニングもやっています。

──オフのトレーニングの成果もあり、春季キャンプは一軍スタート。キャンプ中にも学ぶことがあったのでは。

渡邊佑 ほかの投手の方とは投げ方がまったく違うので、野球の話はほとんどしていないですね。ただ、マツ(松井裕樹)は同級生ですし、いろいろと話をしました。その中でも「マウンドに上がってどうしようもなくなったら、年俸を思い出せ」と言われたことは印象的ですね(笑)。僕が対戦する左バッターは高給取りのいいバッターばかりですからね。「開き直って投げろ」と言われています。

──育成を伝えられてからわずか4カ月ほどで支配下に昇格。石井監督からはどういった言葉を掛けられたのでしょう。

渡邊佑 戦力として考えているからという言葉をもらいました。そう言ってもらったからには、頑張らないといけないなとは思います。ただ、自分でも想像していなかったくらいに順調というか。今はうまくいき過ぎているので、しっかり足元を見て、自分のできることを一つずつやっていこうかなという思いです。

──サイドスロー転向に伴い、ポジションもリリーフに。そういった部分でも高梨投手から学ぶことがあったのでは。

渡邊佑 「マウンドに行ったら投げ方とかは後回しにして、配球も含めどうしたら目の前のバッターを抑えられるのか、しっかり頭を使っていけ」と言われましたね。

──技術どうこうではなく、バッターを抑えるために頭を働かせて投げる。

渡邊佑 そうです。「横から投げているということ自体でほかの投手との平均からは外れているんだから、あとはゾーン目掛けて思いっ切り投げればいいよ」と。できることが増えたらコーナーを狙ったり、自分でステップアップしていけばいいという言葉は、今でも心にととどめていることですね。今は難しいことを考えず、できることをやろうという気持ちでマウンドに立っています。

──投げ方だけではなく、ポジションも変わるなど、入団したころに比べると大きな変換の時を迎えました。

渡邊佑 先発をやるにしてもリリーフをやるにしても結局、今いる場所が自分の稼いでいく道だと思っているので。そこはしっかりそのときの状況に対応してやっていきたいなと思っています。

自らに気合を注入し、マウンドへ向かう渡邊佑。しびれる場面での登板が多いが、首脳陣の期待に応えている


──今後、どういった投手になっていきたいと考えていますか。

渡邊佑 左バッターだけではなく、勝っている試合でしっかり1イニングを任せてもらえるようなピッチャーを目指していきたいですね。

──今後も厳しい状況での登板が続くと思います。

渡邊佑 しっかり体をケアしながら1年間(一軍に)いられるように頑張りたいです。個人としては50〜60試合投げることができればベストですし、その上でチームとしては日本一を目指していけたらなと思っています。

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編集部分析[5段階評価]


【21年のターゲット】50試合登板
【特殊能力】失点の少なさ

 たとえランナーを出しても、無失点でベンチに帰ってくる。安定感抜群、とまでは言い難いが、堅実に結果を残し続けるリリーバーだ。先を急がず一人ひとりの打者とていねいに向き合う姿勢は、これまでの苦労があってこそだろう。一軍でのマウンド経験が少ないだけに、今後は失点した直後にどのような投球ができるのかに注目していきたい。左のワンポイントに限らず、1イニングを任されるようになればブルペンの厚みはさらに増すはずだ。

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