週刊ベースボールONLINE

大島流『危険球に負けない方法』【大島康徳の負くっか魂!!第75回】

 

土橋正幸監督のコワモテの雰囲気が当時のおとなしい選手たちには合わなかったとも言える


あみだはナマイキ?


 第100回の記念大会となった夏の甲子園は、大阪桐蔭高の史上初2度目の春夏連覇で幕を閉じました。敗れましたが、金足農高の吉田輝星投手も素晴らしかった! 決勝は、だいぶ疲れがたまっていたようですが、ベストな状態での大阪桐蔭打線との対決を見たかったですね。

 まだまだ暑い日が続きますが、甲子園が終わると、何となく、もうすぐ夏も終わりだなって寂しい気持ちになります。

 今回は前々回、1992年シーズンの最終盤、西武戦で燃える男・大島が本領発揮した話に戻ります。

 西武の石井丈裕から顔面近くに投げられ、乱闘寸前となった後、タイムリーを打ったという話でした。あの年の石井は15勝を挙げ、防御率1.94。MVPにも選ばれたキャリアハイとも言えるシーズンです。

 実は僕、その前から石井に少しむかついていたんですよ。理由は帽子のかぶり方です。あいつ、あみだにかぶっていたんですよね(ひさしを少し上げたようなかぶり方)。これがすごくナマイキに見えた。

 当時は、いまみたいに他チームの選手と軽い気持ちで会話できる時代じゃないんで話したこともありませんでしたが、引退してから「なんでお前は帽子をあみだにかぶるんだ。それが俺はむかついたんだ」って言ったことがあります。そしたら「頭がでかくて、真っすぐかぶると頭が痛いんです」とのことでした。

 しかも、話してみるとムチャクチャ、マジメなヤツなんですよ。マウンドのふてぶてしい態度と真逆でびっくりしました。

 ピッチャーとバッターというのは、硬球という凶器みたいなものをあの短い距離で投げて打ち、しかも1回1回、勝負がかかる。こうなると、技術だけではなく、お互い腹の探り合いもあります。特によく知らない相手だと、実態以上に大きくなったり、逆に小さく見えたりします。

 お互いさまではありますが、要は「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ってヤツですね。向こうは向こうで、僕のことをかなり怖い人と思っていたみたいですから。

 僕はドラゴンズ時代から死球自体は、それほど多くありませんが、顔近くに来たことは結構あります。もちろん、カーッとしますよ。よく「バカヤロー!」と打席から怒鳴ってにらみつけてました。

 いまなら審判に注意されるかもしれないけど、当時は逆に審判から「まあまあ、落ち着いて」ってなだめられていました。

 実は、この危ない球を投げられた後の対応って意外と深いんですよ。僕が思っていたのは、「バカヤロー!」の気持ちのままではなく、一呼吸置くことです。カッカしたまま打席に入ったら、だいたいが外の変化球をひっかけてショートゴロです。ここで一度、冷静になって、逆に「次はこっちはないだろう」と踏み込んで外角を狙い打ったこともあります。日本ハム時代もそういう場面が何度もあって、マット・ウインタースから「あいつバカだよね、大島さんを狙ったら打ち返されるに決まってるのに」と言われたこともあります。

 ただ、昔の巨人の選手に多かったんですが、むっとしながらも何もなかったように振る舞う選手もいますが、これもどうかなと思います。明らかな失投ならともかく、向こうが威嚇(いかく)してきたのなら、怒らなきゃナメられます。特に外国人投手ですね。

 ただ一人だけ、僕がそういうときの対応で、すごいな、カッコいいなと思ったのが、亡くなられた広島衣笠祥雄さんです。あの人は危ない球だろうが、当てられようが、ほとんど顔色を変えず、当たったときもその個所を手でサッとはらい、タタタッと一塁に向かった。ダンディでしたね。もちろん、衣笠さんは避け方もうまかった。逃げるのが下手な選手なら、あんなに当てられているうちに何度も大ケガをしてますよ。

 僕は避け方も練習しました。ここなら捕手側に回転しようとか、そのまま倒れ込もうとか。

 いまは、そういう練習はしないけど、その代わりガンダムみたいにあちこちに防具をいっぱいつけています。着用を義務にしている球団もあるみたいですね。

 僕のポリシーの中では、あれはNGです。美しくないし、いかにも避けるの下手ですよ、打つのが下手で自打球多いですよ、って言っているみたいじゃないですか。皆さんはどう思いますか。

ファウルに小さく拍手


 92年、日本ハムは結局5位に終わって、土橋正幸監督は1年で退任となりました。土橋さんは、本当はいい人なんですが、その表現が下手というか、選手との距離があった監督さんでした。

 キャンプで最初にやったのは、「攻守交代」です。要は、守備位置にダッシュし、ダッシュして帰ってくる。たぶん、高校野球みたいに、きびきびとした野球をやりたかったんだと思いますが、正直、僕は「プロで、こんなことする意味があるの」と思っていたし、もともと足も遅いんで、チンタラ走っていました。

 そしたらキャンプ初日に呼び出され、いきなり「君はうちのチームにそぐわない」って言われたんですよ。「そぐわないってなんですか」って聞き返したら、「若い連中に悪い影響が出る」と。なんのこっちゃです。

 それでも監督相手にケンカをしても仕方ありません。「はあ」と生返事をしておきましたが、最初が最初でしたから、結果が出なければ“ほされる”なと思って、序盤は結構いい成績を出したんですよ。

 そしたらまた突然、呼ばれて今度は何かと思ったら、満面の笑顔で、「島ちゃん、いいね。オールスターまで頑張ってくれ」。

 島ちゃんって誰! ですよね。そのときは、なぜか半袖のシャツを4枚ももらいました。

 ただ、その言葉どおりオールスターが終わったら、いきなりスタメン外されました。別に打てなかったわけじゃありませんよ。なのに、この豹変は何! ですよね。プロ野球選手ですから結果が出ない、じゃあ使わない、なら納得するしかありませんが、このとき以外でも納得できないことが多かったんで、メンタル的にだいぶやられました。実際、僕だけじゃなく、若い連中からもかなり不満が出ていましたね。

 一度、こんなこともありました。試合中、東京ドームのベンチにファウルの打球が飛び込み、跳ねた球が土橋さんの頭に当たった。そのときベンチにいた選手は、何食わぬ顔でグラウンドを向いたまま、足を組んで死角を作り、こっそり拍手です。

 監督は選手に好かれればいいというわけではありませんが、監督の動向は、選手みんながよく見ています。球界の大先輩に失礼かもしれませんが、僕自身が監督になったときの反面教師にもなりました。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング