週刊ベースボールONLINE

満場一致で決まった菅野智之の沢村賞【堀内恒夫の多事正論】

 

7つの選考基準をすべてクリアして沢村賞に輝いた巨人菅野智之/写真=川口洋邦


 今年の「沢村賞」に巨人・菅野智之が選出された。2年連続での受賞は、杉下茂さん、金田正一さん、村山実さん、そして菅野にとってはチームの先輩でもある斎藤雅樹君と、過去に4人しかいない。まさに快挙と言える。

「沢村賞」とは、プロ野球で最高の「先発完投型投手」に贈られる、投手として最高の賞である。「最高の賞」であるからには、選考基準も厳しく設けられている。登板試合数25試合以上、完投試合数10試合以上、勝利数15勝以上、勝率6割以上、投球回数200イニング以上、奪三振150個以上、防御率2.50以下、以上7項目の選考基準がある。

 最近の日本のプロ野球ではメジャーと同じように「先発」「中継ぎ」「抑え」と分業制が主流になっていて、特に完投試合数、投球回数などはなかなかクリアできない状況が続いている。今年から新たに「7回以上、自責点3以内」という沢村賞独自の「日本版クオリティースタート」を考慮する規定が加えられたのもそのためだ。

 しかし、今年の「沢村賞」は、それを見るまでもなく決まった。菅野が従来の7つの選考基準をすべてクリアしたからだ。菅野のほかに、広島大瀬良大地楽天則本昂大などの名前も候補に挙がったが、菅野を脅かす投手はいなかった。選考委員長である私をはじめ、平松政次村田兆治山田久志北別府学の各選考委員全員による、まさに満場一致の選出だった。

 今年の菅野の受賞には大きな意味があると思う。菅野が7つの選考基準をすべてクリアしてくれたことで、7つの項目すべてのクリアが決して達成不可能なことではないことを証明できたからだ。最近「沢村賞」の選考委員会では「分業制が確立した近年の野球では、完投試合10試合以上や、投球回数200イニング以上というのは難しいのではないか」と指摘する人がいた。私の周りにも「完投数10試合以上なんて、今の日本の野球では夢のような数字。選考基準を変えたほうがいいんじゃないですか」と言う人がいた。そんな人たちに「今の野球でもやろうと思えばやれるんです」と反論できる材料を菅野が身をもって提供してくれたのだ。

 私は新人の年の1966年と26勝を挙げた72年にこの賞をいただいているが、2年連続受賞というのは素晴らしい。菅野にはぜひ金田正一さんしかやっていない3年連続受賞を目指してもらいたい。その可能性も十分に持っている。

 今年の投球を見ていると、リードとの兼ね合いもあるのだろうが、ストレートの割合が減り、変化球を投げることが多くなっている。あれだけ打者を力で抑えられるストレートを持っているのだから、さらに力の投球に磨きをかけてもらいたい。

 最近、スポーツニュースを見ていると、ドラフトで指名された投手が「沢村賞を取れるような投手になりたい」と目標を話しているのを見掛ける。この賞がアマ球界にも認知され、重い賞になっていることの表れだ。高校生投手が「沢村賞」の名前を口にしているのを聞くと、選考委員の1人としてこの賞にかかわっている身にはうれしいし、大きな責任も感じる。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング