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無観客での開幕。優勝するためには熱いプレーをしていくだけよ【岡田彰布のそらそうよ】

 

延長12回2対2の引き分けで終わった2008年10月14日の試合。この後にファンと言い合いになったオレ。無観客だとこういうファンの肌感がない。その中でも熱い戦いを見せてほしいわな/写真=BBM


ようやくここまで来た。プロ野球開幕よ


 6.19。この日をもって、都道府県への往来自粛が解かれる。ようやく世界が回り始めた……という印象だ。とういうことでオレもいざ東京である。プロ野球の開幕日、実はこの機会に、私事で申し訳ないが、息子に会うことにしている。息子は現在、東京暮らしで、サラリーマン。結婚して子どもが2人。そう、オレにとっては孫である。

 長い自粛期間で、会えなかった。孫たちがどれだけ成長しているのか、ホンマ、楽しみで仕方ないし、オジイちゃん気分での東京行き、ウキウキしている。

 ただ、このコラム、タイムラグがある。皆さんに読んでもらっているころは、もうオレは関西に戻っている。これが週刊誌のつらいところで、締め切りという制限が付きまとう。そうなると、巨人阪神の開幕シリーズも終わっているということで、果たしてタイガースがどんなスタートを切ったのか。デイリースポーツの評論仕事で、オレは3連戦すべてを見る。だから詳しいことは、来週号でしっかり記すことにする。

 あらためて書くが6.19、いよいよプロ野球が動き出した。3カ月遅れの開幕だ。猛威を振るう新型コロナウイルスのため、開幕が危ぶまれる中、ようやくここまできた。よくぞやってくれた!! 関わったすべての人に感謝である。だけど、当然、制約だらけの今シーズンになる。特例2020はホンマ、異例のシーズンになる。つい最近、新たに加わったのがセ・リーグはクライマックスシリーズ(CS)がなし。パ・リーグは1位、2位でのCS開催。リーグによって違いも出た。

 そんな中での開幕は“無観客”で行われる。オレは現役、コーチ、監督を通じて、この無観客試合という経験がない。だから、その空気感が分からない。どんな気持ちで打席に立ち、どんな気持ちでピッチャーはマウンドに立つのか……。ホンマ、想像がつかない。

 2002年、阪神の監督に就任した星野(星野仙一)さんがよく口にしていた「マスコミも、ファンもタイガースの戦力だ」。そのとおり、阪神は多くのファンに支えられてきた。ファンの声援がどれほど心強かったか。オレも実感している。時に強烈なヤジもあるけど、それも愛情の裏返し。日本全国、どこに行っても、タイガースファンの多いこと。あの1985年のリーグ優勝のとき、甲子園ではなく、神宮球場で優勝を決めたのだが、球場全体が黄色に染まっていた。あの幸せ感はたまらんかった。

ファンには画面で緊張感を味わってほしい


 無観客で思い出すのが、その神宮球場よ。ここは試合終了後、フェンス際に沿って歩き、帰りのバスへと向かう。こんな球場は昔の広島市民球場と神宮だけやった。そら、勝ったら最大の花道よ。在京のタイガースファンの声援を浴びる。気持ちのいいもんやったな。だが逆の場合は大変やった。特に監督になってから、ムチャクチャ言われたもんよ。ボロクソに言われても、前を向いて歩くしかない。でも、たった1度、オレはキレたんよね。

 あれは2008年やったと記憶している(10月4日の試合)。試合が延長12回引き分けで終わった後、オレは真っ先にベンチを出て、グラウンド横、フェンスに沿って歩く。その周りをトラ番記者が取り囲む。質問されるが、ファンの声でかき消される。しかし、そのとき、ひとりのファンの声だけが、しっかりと聞き取れた。

「コラ、岡田あ! 球児(藤川球児)をつぶす気か。いい加減にしろよ!」──。確かに球児は連投で疲れていた。でもオレは勝つために球児を起用し、球児も理解して投げ続けていた。それを「つぶす気か!」とされては……。オレはホンマ、マジギレよ。一度は通り過ぎたが、方向を変えた。その声の主のところに進んでいった。

「エッ!?」と驚いたトラ番たちも向きを変えた。選手もオレのあとを追った。その中に球児もいた。「何を言うてんのや! こっちに来い!」。オレは叫んでいた。すると、声の主はあわてたのか「何も悪気があるわけではないんです」ときた。それで周りのファンが騒ぎ出す。一斉に、その声の主に「帰れコール」ではないか。

 ファンとの間に起きたこの事件。今となってはチームとファンをつなぐ思い出である。それが今シーズン、しばらくはファンの声が響かないゲームとなる。先にも書いたが、オレにはこの経験がないから、感覚が分からない。ファンの声援が力になる選手もいるだろうし、逆にプレッシャーに感じる選手もいる。オレは現役時代、そんな重圧を感じなかったタイプだったと思う。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。現に無観客が決まっている以上、選手のやることは同じ。バッターなら、集中力を高めて打席に入り、ピッチャーは1球、1球に気持ちを込める。やることは同じなのだ。

 まあ、無観客試合なら、それなりの楽しみ方がファンの方々にはあると思う。ベンチからの生の声、内野手の声掛け、そしてバッターが響かせる打球音……これが画面を通じて聞こえてくる。そして真剣勝負の緊張感……。これを存分に味わってもらいたいものだ。

 まだまだ元の姿に戻るには時間が掛かるようだ。しかし、まずは開幕したわけだ。プロとして、ファンに訴えかけるような熱いプレー、熱いゲームを。オレも熱く追っていく。(デイリースポーツ評論家)

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